みりお

ナワリヌイのみりおのレビュー・感想・評価

ナワリヌイ(2022年製作の映画)
4.2
95thアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート作品✨

反プーチン政権を軸に活動するロシアの政治活動家・ナワリヌイ氏が、2020年に毒殺未遂を受け、自身でその黒幕を暴くべく調査チームを立ち上げ、結果プーチン大統領の指揮下で行われていたことを暴くまでのドキュメンタリー。
ナワリヌイ氏自身がSNSの使い手であり、映像の力を駆使していたこともあり、資料映像は極めて充実している。
ナワリヌイ氏が、「自身が投獄されるか、殺されるかした時のために」と撮っておいたインタビュー映像は、彼がロシアに帰国すると同時に拘束され、現在も服役中であるからこそリアリティに溢れ、本当に心が苦しくなる。

素晴らしく頭の切れる活動家であるナワリヌイ氏だが、家族とゲームして笑い合う姿や、毒殺の証言が取れてガッツポーズが止まらない姿は、本当に等身大の40代男性。
親しみやすく、でも信念がある、これほどの人材がロシアに生まれたというだけで、その本領を発揮できないまま投獄されているのが惜しくてたまらない。

しかしナワリヌイ氏は、こう語る。
「悪が勝つのは、ひとえに善人が何もしないからだ」
声を上げることを恐れてはいけない。
権力に怯えてはいけない。
権力が台頭し、自らに刃を向けてくるのは、善人たちがいまの状況に満足して大人しくしているからだ、と。
生まれた国や、政権の腐敗を批判するのはよくある政治活動だとして、それを変えようとしない自分たちにも責任があるのだと発信し続け、自身が投獄された今もその火を絶やさないように注力し続けるナワリヌイ氏に頭が下がる。

2021年3月に有罪判決を受け、それ以降のたった2年弱でナワリヌイ氏は、11回も懲罰房に入れられているという。
その理由は、「廊下を歩くときに、後ろで手を組まなかったから」「上着を着なかったから」「予定時刻より30分早く顔を洗ったから」など。
そして先月もまた、「自己紹介を間違えたから」という理由で懲罰房に入れられたそうだ。
だがおそらく本当の理由は、本作がアカデミー賞にノミネートされたから。
ウクライナ侵攻といい、そんな国があっていいわけがない。
オスカー発表前のいまだからこそ、この作品は最高に注目を浴びている。
どうか、どうかこの作品が賞を獲ってほしい。
そしてナワリヌイ氏が、これ以上監獄で不当な扱いを受けることがないくらい、注目されてほしい。
彼の熱い火を絶やさないためにも。
みりお

みりお