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ヴィレッジのSSDDのレビュー・感想・評価

ヴィレッジ(2023年製作の映画)
3.8
🔳概要
能を伝統的に行っていた村に、ゴミ処理場を構築し運用されるようになる。
母親はギャンブルと酒に明け暮れ借金を抱え、その借金を返すためにゴミ処理場で日中働き、夜は不法投棄を行う青年。
過去の父親の犯罪から村八分にされ、執拗にイジメを受け生きる糧を見出せない。
そんな中10年ぶりに幼な馴染みの女性が戻ってくることで、全てが変わり始める…。

🔳感想(ネタバレなし)
ブラックポイントが強めで邦画としてはなかなか珍しい重めのエフェクトの映像の中、能から始まり期待が高まる。
タイトルの通り閉鎖的な村の話で息も詰まる重たく苦しいサスペンスであり、伝統という悪習も孕む過去から現在に繰り返される悪夢のような独特の世界観を描く。

なかなかこの手の現実に近すぎる世界観の作品は、あまりに精神的衛生上避けたい時があるのだが、不思議と引き込まれて鑑賞できた。能という私生活においてまったく関わりのないものが登場することで、非現実的世界観で中和されたことが大きい。

なかなか秀逸な日本文化の魅せ方をしてくれた本作は、サスペンスとしては物足りない部分はあるものの"新しい邦画の魅せ方"をしてくれた気がする。













🔳感想(ネタバレあり)
・能
理解しようとするのではなく、自己投影で感じるままで良いのだと言う説明が良かった。
理解しようと懸命に観て理解不能だと判断して匙投げそうになるのを止めてくれるので、このセリフがないと諦める可能性もあるからだ。

面を被ると精神が落ち着くとあったが、ホラー的な要素ではなく心理学的なものである。
仮面を被ると没個性的になり、普段しないおどけて見せたり、逆に威圧的に見せたりとキャラクター性を自分とは切り離したことができる。

・犯罪をわざわざ証拠化する行為
理解に苦しむのは村長の息子が、犯罪行為中に動画や写真を撮ること。まったく理解ができないのだが、現実世界でもまさにそれをSNSで世界に配信する輩が多く存在する。デジタルネイティブ世代は、"ネットの匿名性"の無さ、他人に公開して世に残ることの怖さなど無知だ。この教育が疎かになっていることで、過去なら"身内のノリ"、"若気の至り"という言葉で済まされたものが自ら犯罪行為を立証するようになる。

他人に指摘が直接はできなくてもネットリンチという私刑もセットで成立するのだから、なんとも皮肉な世界になったものだ。このシーンに違和感を覚え、滑稽に思えたが、今ではリアリティがあるのだろう。

・死体遺棄
簡単に調べられることだが焼却場の温度が800度、火葬の温度が800-1,200度。
埋め立てでは不法廃棄であとで掘り起こされる可能性もあるのだから、頑張って死体は焼却炉に入れられなかったのだろうか。

もし不可能でも、携帯の画像、動画はどう考えても撮られた当事者達が二人も死体遺棄時にいるだから処分をしなかったのは訳がわからない。前述したデジタルネイティブの"無自覚の犯罪立証"と考えるには、少しサスペンスとしては知性に欠ける行動だ。
保身のための死体遺棄なら証拠は徹底的に消さないのか…と脚本に文句をつけたい部分。

・国民性
-過去の大きく取り立てたことでも、時間を経ると忘れる
-集団意識を持つと同じ指向性を持たされても、無個性になり従う
-臭いものに蓋をし保身に走り、少人数の不幸せの元に多人数の幸せを築く
-犯罪加害者の家族も犯罪者として扱いレッテルを貼る
-デジタルネイティブのネットへの危険性の認識の薄さ
-古典・伝統芸能など日本の独特の文化の終わり
-一度落ちた人を再度挑戦させない文化
-繰り返される貧困と国が認めるギャンブル
など描き出されていて風刺としては素晴らしかった。

・総評
サスペンスとしての是非はあるものの、能という日本人にも今や馴染みの薄い独特の世界観を挟むことで、非凡なサスペンスを昇華させ無二のものにしていたことが評価できる。
風刺もわかりやすくて不気味で嫌悪感を抱かせやすいのもストレートで良かった。
荒さはあるものの満足度は高く楽しめる作品だった。
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