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ダークグラスのhorahukiのレビュー・感想・評価

ダークグラス(2021年製作の映画)
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まず10年ぶりに新作を撮ってくれたことに感謝。しかも完全に衰退してしまったジャンルの創始者的存在の一人として現代にジャーロを復刻してくれたことが非常に嬉しい。ただその絶大な期待もあってか、初見の段階ではかつての光り輝いていた演出力が鳴りを潜めたように思えてしまった。

ジャーロにとって視力はとても重要な意味を持つ(ことが多い)。その視力を太陽と重ねることで、盲目状態を日食がもたらす暗闇とし、それが「世界の終わり」であるとまで作中冒頭で表現されている。アルジェントにとってはその視力=カメラであると考えると、このオープニングによって自身の映画監督としてのキャリアへの言及を行ったのだろうと考えることができるし、撮れなくなることへの恐怖と、この10年間に対する思いの表出のようにも感じた。

過去作(特に『サスペリア』)で主人公に自身の現状を重ねていた監督なので、今作の主人公においても同様なのではないかと勘繰ってしまう。『サスペリア』では解放への悪魔的誘惑であったけれど、目(カメラ)を奪われた自身とそれを支える子どもを含めた周囲の手、そしてあのラストシーン(セリフ)が訴える郷愁めいた孤独からすると、現状(本作…というか製作環境?)に少なくとも満足できていないのでは。ジャーロ全盛期の当時とは比べ物にならない制約を課されている映画製作環境で、どこまで自由に撮ることができたのか。そして、カメラ(視界)を本編では他者(シン)に担わせてもいるし、それは拳銃(ショット)の精度にも反映している。そのあたりを総合的に考えると、どうしても『サスペリア』で打破を表明した牢獄(別種のものだけど)へと囚われていることを嘆いているように感じてしまう。

作中で印象に残るのは「自分は怪物だから見られない方が楽だ」といった旨のセリフ。ジャーロ的に見れば、一方的な視姦のニュアンスを多く感じられるし、それは作中でも何度か挿入される殺人犯の物陰からの窃視症的カメラと同種のもの。ただ仮に前述の意図をアルジェントがもっていたとすれば、それは本作(自身)への言及に当たるようにも思えてくる。本作からも、近年の映画らしく現代の価値観に沿うように様々な要素が現れるけれど、それはジャーロ的価値観・描く対象とは真っ向から対立するもの。常々問題にされてきたことだし、当時ですらデパルマとかめちゃくちゃ叩かれてたわけだから、現代で再現、あるいは昇華することなど不可能なのでしょう。そういった表面的事柄への批判は本当にくだらないと思う。本来ジャーロが意図するものはそれとは真逆であるはずなのに。

アルジェントが昔から語っていたジャーロにおける「悪夢」の意図は恐らく本作でも踏襲しているのだろうし、それは奪われた者同士の状況暗喩でもある。けれど、過去作と比べると内面を抉るような切れ味はあまり感じない。心理セラピーと自称する彼女の職業は、茶化しているように見せかけて実際にそう捉えているのでは無いかと思う。そういった娼婦ー客をダブらせた監督(映画)ー観客の関係性もジャーロ的であり、フロイト(ブロイアー)的であると感じた。観客(+社会的風潮)サイドによる趣旨に反する要求(下劣な行為の要求)を一蹴する姿は、強くも映るけれどそれ以上にその状況自体が創作者にとっての「悪夢」でしかないのでしょう。そう考えると、水路とダム管理事務所という場所設定も意味深に映る。

臭いによる◯性性不能、それ故に行われる殺人。その対象を考えれば犯人の心理が浮かび上がってくる。車による小突くような追突というレイプ表現、物陰からの窃視症的視線、職業属性等、ジャーロらしい演出が犯人の拗れたルサンチマンを炙り出していくという、このジャンルの定石を踏襲しており、更にはそれらひとつひとつが、創作者の置かれた環境における現状暗喩としても機能しているあたりは流石の巨匠だとは思う。ただ、バーヴァにしろアルジェントにしろ、小中理論的な「段取り」の重要性を意識した、過程の美しさにこそ何よりもの美学があった。更にその段取り後における鍵穴撃ちに代表されるような外連味もアルジェントの持ち味であったのに、そういったものが完全になくなっていて、即席的なゴアでお茶を濁しているように感じる。もしこれが最後の作品になっちゃったらちょっと悲しい…。




と言うわけで皆様、ご無沙汰しております!まさか一年以上も放置してしまうとは思いませんでした。エルデンリング沼怖い!ほんとは結構前に沼を一度脱したのですが、その間スプラやったりポケモンやったり白鵬の断髪式見にいったりしてて、しかも最近PS5買ったせいでエルデン沼に再突入してしまいました…。昔みたいに頻繁にはタイムライン見に行けないと思うし、投稿も時々になると思うけど、不定期で続けていきたいと思います!
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