ゆきゆき

ダークグラスのゆきゆきのレビュー・感想・評価

ダークグラス(2021年製作の映画)
3.8
あのダリオ・アルジェント監督の新作なので強烈なジャッロ映画になるのかと思いきや、見てみたらいい意味で裏切られた一品。監督はトンチキ血しぶき映画を撮っていればいいんだよ、と思っていた以前の自分に猛省を促したい。

黒い影の犯人、血みどろに殺される女、犯人の執拗な追跡の果てに事故で視力を失ってしまう主人公のディアナ・・・と序盤はアルジェント監督作品の定番展開であるが、ディアナが退院した辺りから趣が少々違うな、と思わせる。ディアナの喪失に優しく寄り添う感じなのです。同じ事故で家族を失った少年のチン、盲導犬のネレア、訓練士のリータ。以前は人間関係も精神的にも孤独であった彼女に家族や友人ともいえる存在ができたのである。だからこそ再び彼女を襲ってくる犯人の卑劣さが際立つ。

ジャッロといえば、登場人物が唐突かつ無意味に派手に死ぬのがお決まり。だが今作ではそういった人の死にしっかりと向き合っている。当たり前だが、殺人などの犯罪は当事者や周囲の人間から余りに多くの物を奪う。そのことを丁寧に描いた部分は、とりあえず人殺しとけな映画を撮ってきたアルジェント監督の、これまでの作風への自己批判的でもあると思う。

もちろん監督らしい描写もしっかりと残っている。特に意味もなくディアナの首に絡みつく蛇など、アルジェント爺さんのリビドーはまだまだ衰えておらんな、とニンマリしてしまう。

80歳を越えて尚新境地を見せてくれた監督に感動すら覚える一作でした。
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