ジェイコブ

ダークグラスのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

ダークグラス(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ローマでコールガールとして生計を立てているディアナ。仕事帰りにローマで発生しているコールガールを狙った連続殺人の犯人に追われ、交通事故を引き起こしてしまう。事故の結果、ディアナは一命を取りとめたものの視力を失い、相手方の中国人一家は10歳の少年チンだけを残して事故死してしまう。盲目となった事で自暴自棄になるディアナだったが、社会福祉士のリータや盲導犬の助けを得て、次第に暗闇の生活に慣れていく。そんなディアナに再び、シリアルキラーの魔の手が迫る……。
サスペリアで知られる巨匠ダリオ・アルジェントの最新作。話としてはシンプルであるが、不安を掻き立てるBGMと共に全編に渡って散りばめられた印象的なシーンの数々に、巨匠の凄みを感じざるを得なかった。
本作の裏テーマとしてあるのが、人間同士の共存と、女性の真の自立だろう。ディアナはコールガールとして、搾取される側にある立場に置かれた女性だったが、決して金に目が眩んで男に媚びる事は無かった。そのプライドの高さ故に常に周りを遠ざけ、気がつけばいつも一人であったが、彼女はそれを強さとすら思っていたのかもしれない。ディアナは事故で視力を失った事で始めて周りの助けが無ければ生きられない人間の弱さと脆さに気がついた。そしてそんなディアナの目として行動するチンもまた、移民という社会的に弱い立場にある存在だ。本作の肝は、孤独で社会的な弱者の二人が出会い、手を取り合って支え合い、共存する事で困難に立ち向かっていく姿を描く事にある。
対する犯人の男は、男尊女卑の権化とも言うべき存在であり、サディズム的な性的嗜好に加え、目的の為なら手段を選ばない冷酷さと、正に絵に描いたようなシリアルキラーだ。男がディアナを執拗に狙う理由が、彼女のプライドの高さ故に出た何気ない一言から、自身のプライドを傷つけられた事によるものであるのが物語のテーマを裏付けている。
また、二人が夜の森を逃げ惑う中、水蛇に襲われる意味深なシーンは、聖書のアダムとイブの話から引用したと思われる。蛇(犯人の男)にそそのかされ、楽園(リータの家)から逃げ出した二人が正にアダムとイブだろう。
ラストに、香港にいる親戚に引き取られるチンと笑顔で別れ、警察(力のある男)からの送迎の申し出を断るなど、気丈な態度を見せたディアナ。しかし、自身の愛犬と二人になったときにふと本音を漏らす。様々な経験を経て、人は一人で生きられない事を学んだディアナにこれから待ち受けるのは、チンもリータもいない真の孤独である。しかし彼女はそんな状況に対し、寂しいと口にできるようなった。これは一見弱さにも見えるが、辛い経験を通して周りを頼ることや弱い自分と向き合う事ができるようになった強さを手に入れたとも言えるのだ。
俗物的なバイオレンス描写を嫌うダリオ・アルジェントの決意すら感じられた良質なサスペンス。