似太郎

大阪ど根性物語 どえらい奴の似太郎のレビュー・感想・評価

5.0
お下劣映画の巨匠、鈴木則文の本格デビュー作。東映作品にしては珍しく人情喜劇である。まるで伊丹十三の『お葬式』みたいなギャグと風刺精神が濃厚。

この頃の鈴木則文はまだ然程、アナーキーな作風を感じさせず地味なモノクロ画面で大正デモクラシーの隆起とその終焉までを葬儀屋の主人公(藤田まこと)の視点を借りて描いている。

画作りが非常にモダンでポップだと思う。バタ臭くてあまり東映らしくない。ヒロインの藤純子が清純な少女みたいで愛おしくなる。相棒役の長門裕之も良かった。

中盤の第一次大戦後の不景気感の描写や、「死」を連想させるワードが随所に登場する。ラストはたしかに御涙頂戴的なクサさも漂うが、そこまで鼻につかないレベル。ある意味、潔い終わり方。また斎藤一郎の音楽もエスニック風味で印象に残る。

恐らく本作は、脚本を書いた中島貞夫の功績が大きいんだと思う。コンパクトに内容が凝縮されており相当密度が高い。ギリギリ任侠映画っぽくなる所をある程度、監督が抑制させている印象も強い。

結果的に誰もが楽しめる庶民派喜劇へと変貌。個人的に鈴木則文作品の中でも構成がシッカリしてて、このデビュー作が一番バランスが良いんじゃ?と思わされる程に役者が活き活きとしている。結構、破綻の多い監督さんだけに安定感のある作り。

全編、人間臭くワチャワチャした楽しい楽しい人情喜劇。個人的にはツボだったシャープな撮影、重厚なセットと美術、各キャラクターの存在感と映画的な外連味。そういった諸要素を踏まえてスコアを5.0献上。🫱💐
似太郎

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