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夜の最前線 東京㊙️地帯のotomisanのレビュー・感想・評価

夜の最前線 東京㊙️地帯(1971年製作の映画)
4.0
 東京という器も四半世紀前は戦火にさらされた欠け茶碗。そこに住む人も善悪の境を取っ払った闇塗れだ。それが復興から成長へ踏み出し行政と学校の後押しで金の卵たちを引き取るようになれば、街の様子も焼け跡なんて昔話、地面むき出しはただいま新築中の証しだ。
 そんな他人の新築中を逃げ隠れしながらラッツォ岡崎二朗が郷に抱かれて息絶える。やくざ者と渡り合って女の借金証文を奪い損ねての最期が岡崎らしくないのもそのはず、そいつは、もともと強面の相棒、郷鍈治の役回りだから。

 その郷は金の卵の対極、すけこまし気取りで新宿に進出したぽっと出アンちゃん。これが進出早々、からかい半分の岡崎に騙されてすってんてん。これが腐れ縁な二人のスタートだ。腐れついでにすけこまし業で二人一緒に落ちぶれて落ちた先が新宿唯一の無人地帯、建設現場。男二人も腐れ合いの涯、昔の焼け跡に戻ったような都会の隙間で、大骨折りで散々な岡崎に強面郷も微妙にやさしい。そこで、女運がないのならいっそ男相手で、こころも削る思いで身体を売って掴んだ金を岡崎に貢ごうという。初めてのやさしさを街の夜風が嗤って弄りゃあ手土産にたい焼きなんざ泣かせるぜ。

 しかし、アメリカ人なら予め郷に殺しまで背負わせておいてここぞクライマックスと締めくくるだろうが夜の新宿はそいつを倣いとしない。岡崎が見せた漢気の志しを背負って郷が殴り込む先は女の持ち主、その昔は郷そっくりだったと語られる新宿の帝王。手下もまとめてこいつを伸して搔っ攫う女が郷の感傷にそっと寄り添い「一緒に信州に戻ろ」なんて運びならディスカバー・ジャパンだかモーレツからビューティフルに侵される前の日本を読み違えてる証拠だ。
 どっこい、帝王様の小作女状態から引き抜いてもらって晴れて自作自営となれた女が告げるのは「私のマネージャーに」だった。愛も夢も感傷も凍える前向きさに打たれて今度こそ弱気が芽生えた郷がひとり立ち去る新宿はもう朝。

 お天道様は明るくて、もう工事現場の場所さえ知れやしない。朝日リセットを食らった帝王そっくりな郷のすけこまし根性も、また新しい女を横目に見れば感傷の芽を追ッ飛ばして勃●する。大成長期の野郎なら猛成長中の街と同じツラで生きやがれ、と何かが促すんだろう。
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