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東京の宿のzhenli13のレビュー・感想・評価

東京の宿(1935年製作の映画)
3.5
『その夜の妻』『非常線の女』の表現主義的でノワールな道具立てや目を見張るようなショットの連続、『東京の合唱』『生れてはみたけれど』の生の暴力性をも孕んだ豊かな子ども描写や飄然とどこか乾いていながらもほの温かさを感じるカメラワークと演出にすっかり魅了されていたので、この『東京の宿』ではお涙頂戴のメロドラマに傾いてしまったのがちょっと残念だった。岡田嘉子も柄を生かした配役とは言い難い。もちろんショットの完成度は高く、自分の勝手な期待から肩透かしだったというだけなのだが。
あ。でも青木富夫がエアで酒を勧めるシーンで涙が出た。彼のエア徳利から注がれる酒を坂本武演ずる父がエア盃で受ける。そのうちエア碗に持ちかえて両手で受ける。子どもが親を元気づけるということの功罪。人は貧しくてなお想像を羽ばたかせられるかということ。
飯田蝶子の役は戦後の『長屋紳士録』へとつながる。そういえば坂本武と2人の子どもが彷徨う風景は工場が見えなければまるで焼け野原のようだ。

非常線の女が1933年、本作が1935年で坂本武を主役とした「喜八もの」と言われる三本のうち最終作。『出来ごころ』はまだ観てないのだけど『浮草物語』も含めたこの三作で人情ものに傾いたということだろうか。小津本人の傾向だけだろうか。
1930年前後から1938年国家総動員法発令までの間は、世の中の不穏な圧が高まりつつあっただろう。1939年成立の映画法によって製作への直接干渉が始まるまでの間にも、時代は小津作品の製作にどのような影響を及ぼしていただろうか。そして応召と抑留生活が戦後の作風に大きな影響を与えていることは間違いない。
戦前の小津作品を観られるだけ観よう。そういや蓮實重彦の「監督 小津安二郎」も買ったまま読んでなかったので読もう。
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