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千夜、一夜のhiyoriのレビュー・感想・評価

千夜、一夜(2022年製作の映画)
4.2
久保田直監督の作品。前作「家路」も良作だが本作はドキュメンタリーの更地を抜け劇映画として遥かに完成度で超えた。社会派の側面を全面に押し出せそうな題材でもその辺の情報をそこそこにして飽くまで人間ドラマに焦点を当てている。勿論ワンカットで人物を捉えるようなドキュメンタリー的な要素は健在なのだが、それが感情の抑制と解放を自然に表現しているのだ。撮る者と撮られる者の心情を垣間見るという映画本来の役割を本作は最大限に発揮している。田中裕子と久保田直監督は2回目、脚本家の青木研次とは3回目の仕事で、3回ともが田中裕子に対する宛て書きらしい。製作側から役者への人格、実力に対する信頼、そして役者から作品への理解力の賜物に他ならない。待つことをアイデンティティーとしてきた女の迷いは善も悪もなく迫る者達に蔑ろにされる。それでも彼女を奮い立たせるのはもはや愛情でもないのかもしれない。そこには生き様があって誰にも触れさせてはいけないのだ。
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