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千夜、一夜のLouのレビュー・感想・評価

千夜、一夜(2022年製作の映画)
4.1
突然去っていった夫を30年間待つ女性。演じるのは田中裕子さん。淡々と言葉をつむぐなかで静かに儚さと痛みを感じさせる演技、ハマり役だったと思う。

スクリーンに映る風景はまさに日本そのもの。穏やかな海に面した町、漁港、木造家屋、夕暮れの斜光に照らされるユスリカの集団。言ってみれば現代における高齢化集落。閉鎖的で衰退的で、どうしようもなく逆らえない時の流れを感じさせられる。

重い。想いが。正気でいられるわけがない。だって30年間、半殺し同然な状態で、ただひたすらなんの確証もなく待ち続ける。待つ側の想いは募るばかりで決して癒えることはない。印象的だったのが「10分ごとに考えが変わって、それをずっと繰り返してきた」(意訳)というセリフ。果てしのないものに耐え続けた彼女の言葉の重みを感じる。

物語でよくある流れとしてあるのが、傷ついたり悩みを抱える主人公が他者との交流を通じて自分を再生させていく、というもの。サイコやカルト系でもない限りこの流れを汲まない作品というのは見返してみてもほとんどない気がする。例によってこの作品もそういう趣旨は無くはないが、結果としては少し外れている。つまりハッピーエンドともバッドエンドとも取れない終わり方。これを踏まえて、わざわざ語間に句読点が入ったタイトルを見返すと、なんとなく見えてくるものがあるような......
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