010101010101010

千夜、一夜の010101010101010のレビュー・感想・評価

千夜、一夜(2022年製作の映画)
3.8
いやぁ、終盤は圧巻だった。
田中裕子の晩年の代表作になるんじゃないか。長回しをそれとは感じさせない集中力、密度。

三十年という歳月が、静かに人を狂わせる。
現実と折り合いながら生きることを選ぶ尾野真千子との対比。
毎晩ああして、幻影と話していたのか…。
そこについに姿を見せる人。そして再び去る人。
どうしても、どこまでも、待ちつづけることを選んでしまう人…、暮れつつある眩しい日の光をバックに浜辺を一人、足早に消えてゆく姿…。
そうかぁ…、そうなのかぁ…、と、その喪失のあまりの深さをまざまざと見せつけられる。

個人的には、昔一度だけ旅した佐渡という島にも思いを馳せる。
ある種、「果て」のような場所。人が消えることも、ある意味で珍しくないと言われても納得してしまうような。
そして、この島とも縁の深い、能の、狂女もの…をも想起させられるのだ。
能にもまた、帰らぬ人を待ちつづけ、待ちつづけ、待ちつづけているうちに静かに狂ってしまい、亡霊になってもまだ待ちつづけているような女が出てくるのである…(「井筒」)