シズヲ

ファンタスティック・プラネットのシズヲのレビュー・感想・評価

3.7
必死に逃げ惑う人間の母子、迫り来る巨大な青い手。散々弄ばれた末に母親が息絶える様子を、手の主である巨大宇宙人の子供達が無邪気に観察する……。異様なビジュアルも含めて、冒頭からして只管に度肝を抜かれる。子供の頃に前衛的な名画を見てぼんやりと感じた怖さや不気味さを、鮮烈な形で具現化したような趣に満ちている。もはや悪夢的である。

シュルレアリスムめいた絵画的映像が本作の独創性を形作り、それらが紡ぎ出す前衛的な世界観が否応なしに脳裏へと焼き付けられる。奇怪な外見の宇宙人、脆く小さな存在の人類、異様な情景描写の数々、シュールかつグロテスクな野生生物たち……最初から最後まで視覚的なインパクトが凄まじい。要所要所で登場するレトロフューチャー的なガジェットも含めて、退廃的な超現実性とSF的骨子の奇跡的融和を感じる。アラン・ゴラゲールの手掛けるモダンでサイケデリックなサウンドも何処か70年代的な趣があって良い。

“巨大知的宇宙人に弄ばれ飼い慣らされる人類”という構図によって掻き立てられる本能的な恐怖感。魚類を思わせる青い風貌のドラーグ族、映画を見る観客側の生理的嫌悪感を絶妙に擽ってくる。そんな彼らが蟻でも弄ぶかのように人間を殺害し、小動物の如く人間をペットとして飼育する。人間が動物の生殺与奪を握るのと同じように、異様な姿の宇宙人が人間の生殺与奪を握っていく。その不気味さと皮肉めいた風刺性。こうした“知的生物”と“動物”の逆転構図に関しては『猿の惑星』も連想させられる。そしてドラーグ族の奇妙な文化の数々も、“動物”目線で見る“人間”の姿を戯画的に描いているかのようで印象的。

どぎつさすら感じるサイケな絵面に只管ぶったまげる作品だが、それでいて面白いのは娯楽作としての体裁をちゃんと維持しているところ。粗筋自体は“知的宇宙人に追いやられた人類が反抗の狼煙を上げ、最後は共存の道によって生存権を勝ち取る”という非常に率直なものであり、前述した逆転構図の風刺性と結び付いて本作のテーマ性を形作っている。終盤の“野性の惑星”のシーン、アバンギャルドが極まって半ば神秘的。

任天堂のゲーム『ピクミン』は本作を参考にしているらしいが、未知の惑星を舞台にしたシュールな世界観は言われてみれば通ずる部分がある。主人公のオリマー達も小さな知的生命体として描かれる他、ピクミン達が束になって巨大生物に抵抗したり殺されたりする絵面なんかも本作における矮小な人類達と重なる。
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