ラピュタん

愛する人に伝える言葉のラピュタんのレビュー・感想・評価

愛する人に伝える言葉(2021年製作の映画)
4.8
他とは一線を画す、
現実的かつ奇跡的な感動作

あまたある医療ドラマの中で、この作品は抜きんでています
登場する主人公の主治医役は本物の医師である点と、彼が行う理想的な医療の実例を紹介している点において特に優れているのです

ガブリエル・サラ先生の「存在感」は圧倒的で、監督の敬愛するドローブや今作でセザール賞を獲得したマジメルといった名優と並んでも全く違和感がありません
これは監督の手腕でもありましょう(セシルさん以外の看護師も本職とのことでびっくり×2)

死というテーマを扱いとても精緻に描きながらも重くなりすぎず、御涙頂戴といった軽薄さも皆無で最後まで引き込まれました
あの時はどんな心情だったのだろうか?と思い返すたびに、解きほぐれてきて胸が熱くなるという反芻が味わえるのもいい

がん死は日本人の死因のトップで、生涯にがんと診断される確率は50%程もあるという現実に目を向ければ、「死」は誰にとっても身近なテーマといえるでしょう

孤独なひとりの男はやがて旅立っていく
精密にその過程を、彼の人生を追う一方で過去の回想は描かれず、「今」を冷徹に進行させます
わたしたちもそれを見守っている
「何も成し遂げることがない人生だった」と彼は言うのですが…

ひとつの死は、その瞬間に消滅するのではないはずで
周囲に必ず残されるものがあるということ
それは医療者を含めてのことでますし
もちろん観客の心にも刻まれます

本作にはとっても大切なメッセージが散りばめられていました
「病は自分のせいではない、家族のせいでもない」
「患者を・・・にしない」
「嘘は告知するより本人を苦しませる」
「・・・していいと、安心させてあげること」
患者は四六時中不安に苛まれるし、誰もが強くなれるとは限らない

サラ先生は、「旅立つ前に伝えるべき5つの言葉」を主人公に伝えます
どんな言葉だと思いますか?

それを耳にした観客は、きっと安心するはずです!
もしものとき、迷わなくて済むのですから
この作品には、多くの人生を変えうるパワーがあると確信しています そして、観終わった時に、観客はシンプルな5つの言葉の重みを直に噛みしめるはずです

高校生くらいから
カップルとか家族とか
悩んでいるとき、苦しみの中にあるとき
そして泣きたいときには特にお勧めします


⭐️サラ先生はがん専門医🍀
 監督曰く、型破りな先生であり、実際に監督は彼の診療行為を許される範囲で見学したり、自分が患者役となって先生とロールプレイして研究したとのこと
 この作品の感動をさらに高めていました!
⭐️劇伴・音楽も素晴らしい
 バッハのG線上のアリアがジャズ風に!
 クライマックスで使われるNothing comperes to Uやエンドロールで流れるVoyage Voyageが特に印象的でした
⭐️エロティックなタンゴも活かす
 化学療法で点滴中の患者たちの前では、生演奏と情熱的なタンゴが👠
⭐️医療従事者・医療行政に携わる人は必見では?
 日本の終末期医療もこんな風だといいな、と思いましたが、監督もフランスの医療もこのようになってほしいとのこと
⭐️主人公は俳優の卵🥚の先生
 若手俳優たちの競演もあり、見応え充分
⭐️サラ先生はここで描かれている医療をもっと広めたいと願って出演
 その経験に裏打ちされた存在感とひたむきな情熱が崇高でした
 先生の眼差し、言葉、態度のすべてが必見ではないかと!
(例えば3000円しても高いと思えないはず!安っぽい例えでスミマセン💦)

⭐️終末期医療にもっと関心を!
 フランスならではの切り口もありますが、多くは日本にも共通しているはず
 誰が変えるのか?末期に臨む人や家族にはそんな余裕はないはずです…だから❗️

以下ネタバレすれすれ
〜・〜・〜・〜・〜・〜






🟠闘病しながら教師を続けるマジメルと対照的な演技を学んでいる学生たち 
彼らの真摯な姿勢は、その瞬間に自分を発露させて輝かせる行為でした 
それは彼自身の過去の姿に重ねられるのでしょう

🟠彼らを描くことで、演技というものへの監督のこだわりと敬意が語られているようでしたが、一方で、演技でないサラ医師の本物が放つオーラを映画に溶け込ませていたのは正に奇跡的!

🟠母は弱り果てた息子を、ようやく抱きしめます
「可愛い可愛い!わたしの息子!」
まるで彼が乳児であるかのように
…これは効きます、あとからじわじわと 思い出すたびにじいいん💧

🟠息子は、旅立つ父と初めて会えるのでした 
(選ばれたのでしょうか)
罪悪感に打ちのめされた父と
父なき息子の間には、会話はすでにありませんが…美しい歌が2人を包むのですから、思い出すとじんわり目が潤います
思いは伝わるはずだと、サラ医師が彼に伝えていたことできっと救われていたと思います
同時に雲を見上げる2人の気持ちは、象徴的でした これも泣けますね

🟠冒頭のシーンで、辛い経験だったと話す看護師にサラ先生は淡々と語りかけます
彼らの数々の経験の厚さを感じさせるシーンでした

🟠人生経験の多寡によって重ねた年輪によって、分からない部分が残る作品だと思います
何度でも、例えば十年ごとに見返すべき名作でしょう
ラピュタん

ラピュタん