幽斎

マッド・ハイジの幽斎のレビュー・感想・評価

マッド・ハイジ(2022年製作の映画)
4.0
恒例のシリーズ時系列
2022年 4.0 Mad Heidi 本作
2025年? Heidi and Klara 続編、製作決定!(笑)

独裁国家に転落したスイスを舞台に、世界的に愛される児童書「アルプスの少女ハイジ」主人公ハイジの壮絶な復讐劇を見事なエログロバイオレンスで綴る、新感覚エクスプロイテーション映画。Tジョイ京都で鑑賞。

皆さんは「スイス映画」と聞いて何を思い浮かべますか?。レビュー済「ブルー・マインド」他国とは違うセンテンスで捉えた作品も有るが、多くは日本未公開。スイス映画の歴史は古くても浅く、映画発祥の国フランスの影響力を数多く受けた。スイスはドイツ、フランス、イタリア、ロマンシュが公用語。列強国と国境を接する為に、彼らは内向きに身を守る事で小国を成り立たせた。口下手な国民性でエンタメは苦手だと思われた。

ソレを覆したのがスイスの女性作家Johanna Spyriの原作。ドイツの文豪Johann Wolfgang von Goethe著「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」から着想を得た。ベースに有るのはキリスト教に対する信仰心、生真面目なスイス国民の気質も垣間見える。此れまで多くの国が映像化してるが、日本のズイヨー映像「アルプスの少女ハイジ」。原作の公式アニメとしてフジテレジョンで放映。因みにスポンサーはカルピス。此のアニメが全てのハイジ作品のマイルストーンに成った。日本のアニメは原作をリスペクトした上で自分達の価値観を上書きしても他者に理解が得られる「相手を尊重する精神」が世界的に支持される所以だろう。

国内でまったり満足してたスイス映画界に「喝!」を入れる人物が登場。本作のエグゼクティブ・プロデューサーTero Kaukomaa。ナチスの残党が月の裏側で地球侵略の準備を進める、奇想天外なプロットの痛快おバカSF「アイアン・スカイ」製作。レビュー済の続編「アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲」イマイチだが、ナチス復活を荒唐無稽に描いた作品は低予算を跳ね除け大ヒットをカッ飛ばす。フィンランドで全くスポンサーが付かないので、世界中からクラウドファンディングで資金調達した事でも話題に。

今度はスイスの国民的象徴を、作風と真逆なゴア描写満載なアイアン・スカイ「ハイジ版」を創らないかと、スイスのプロデューサーValentin Greutertに声を掛けたが「そんなの権利元が承知する訳無いじゃないか」突っぱねたが、意外な事にSchweizer Radio und Fernsehenは「何ソレ、面白そうじゃん」スイス国内で制作する事を条件に認める。スイス映画で世界的に通用する作品を創りたいが、問題は製作費。Kaukomaaは作品の価値を高める為に敢えてレーティングR-18を念頭に得意のクラファンで19カ国538名の投資家から約200万スイスフラン、約2億9000万円を調達!。

「Exploitation films」オックスフォード大学の文献を引用すると、興行成績を上げる為に時事問題等センセーショナルな話題や映画としてタブーとされるテーマを意図的に取り上げる「低俗」←此処が大事(笑)。利用する「exploit」が語源。1950年代以降に量産されたハリウッド映画が起源で、犯罪行為スレスレを狙う作品だが、近年は専らヴァイオレンス映画が多い。本作はスイス映画初のエクスプロイテーション映画で有る。

「アルプスの少女ハイジ」刊行は1880年、パブリックドメインなので、やりたい放題出来る、ネタ切れの映画界では既にレビュー済「プー あくまのくまさん」の前例も有るが、集めた資金をキャストに還元した事で、作品のクオリティは格段に上。世界観を支配するのは、第二次世界大戦の爪痕。永世中立国スイスも、周囲をグルリとナチス枢軸国に囲まれ身動きが取れなかった。もし、スイスがナチス化したら?。おバカ映画に社会的なテーマが有る事も理解したい。

皆さんにクイズです!本作の元ネタは世界最大の食品会社ですが何処でしょう?・・・ヒント、コカ・コーラじゃないよ・・・・・よくクイズに出ますけど答えはスイスの「ネスレ」。私はネスカフェのイメージが強いが、ネスレは戦う食品会社として有名で、世界企業を次々に買収して事業を拡張、アマゾンも一目置く経営手腕を誇る。スイスらしく乳児用粉ミルクで発展した会社「母乳より自社の乳児用製品が健康に良い」発展途上国に売り込んでボイコット運動が勃発。偉大なるスイスリーダーと大差無い(笑)。

主演Alice Lucyは日本人ウケするヴィジュアルだが「Junction 9」長編デビューのイギリス人で本作が短編を含めて3作目。ペーターを演じるのはアフリカ系。眼帯の御爺さんはイギリス人。ロッテンマイヤーのパロディはオーストリア人。唯一、スイス出身なのがクノール司令官の人。スープで有名な食品のクノールはドイツ発祥なので此処にも皮肉が効いてる。でも日本人が一番気に為るのはクララ役の女性だろう。

アルマル.G.佐藤さん32歳。日本人とスペイン人のハーフで日本語もネイティブ。スペインのマドリッド出身ですが、16歳まで日本で暮らした。モデルから女優に転身、短編を含め16作品に出演。彼女も日本要素を加える事は大切だとスタッフと話し合った。クラウドファンディングに日本からの賛同者も居て、日本語のTシャツも作られたとか。本作がヒットしたら、次は日本に行きたいわと嬉しそうだった。チーズのせいで車いす生活に為ったクララの活躍にも目が離せない!(笑)。
www.instagram.com/almargsato/

スイス名産チーズの原材料は生乳。日本で最も酪農が盛んなのは北海道。私は京都人ですが、札幌に友人が居て試される大地の映画事情を良く聞くのですが、牛乳が余る理由は生乳の需要が供給を下回る、と言うニュースはよく耳にします。しかし、国内に出回る乳製品の結構な割合が輸入品と言うのはご存じでしょうか?。GATTカレント・アクセスと言う関税が掛けられ、十数万tを輸入しなければ為らない。自動車等の貿易不均衡の犠牲に酪農家は耐えるしかない。私はもし日本で創るなら翔んで埼玉みたいに「マッド・蝦夷」で良いんじゃないかと思う。

母国スイスの次は宿敵ドイツへ殴り込み?(笑)。自由な暮らしの尊さを本作で再認識。
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