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百合の雨音のnetfilmsのレビュー・感想・評価

百合の雨音(2022年製作の映画)
3.5
 栞(花澄)は編集者として着実にキャリアを積み上げ、企画室長にまで登り詰めたいわばやり手のキャリア・ウーマン。会議中にうたた寝する部下を叱咤しながら自身は昼も夜もなく仕事に忙殺される日々を送る。はっきり言って無能ばかりの現場だが彼女にも唯一心許せる優秀な部下の葉月(小宮一葉)がいる。葉月は企画室長である栞の苦しみを一番近くで、誰よりも理解している。そして彼女に秘かな恋心さえ抱くのだ。監督の金子修介にとっては『OL百合族19歳』以来のおよそ40年ぶりの堂々たる「百合」映画である。幾ら同じ会社の違う部署とはいえ、会議室でカギもかけず立ちバックかます栞の夫の澤田(宮崎吐夢)も相当な厚かましさだが、その後は女同士のいわゆる禁断の恋へ明確にシフトして行く。キャリア・ウーマンの栞は仕事一筋なのかと思いきや、大事な夜の営みの前にセクシーなネグリジェで夫の前に少女のような立ち振る舞いで待ち構える。この場面の淫靡な栞の姿こそ、昭和のロマンポルノの刻印に他ならない。澤田はその日の昼間に会議室で水島華(百合沙)相手に発射してしまったから立つわけもなく、妻との性を拒絶する。キャリア・ウーマンの栞にとっては妊娠のリミットが差し迫るのだが、実は夫の浮気を確信して鎌をかけているのだ。確かに妊娠のリミットはもうすぐそこだが、キャリア・ウーマンの彼女の自由奔放な性は反比例的に旺盛になって行く。

 今作も図らずも女同士のシスターフッド的な連帯が奇妙な愛欲の襞を作る。澤田(宮崎吐夢)はトライアングルの間を往来する心底鬱陶しい狂言回しとしてしか機能しない。同期で親友の華との情事を目撃しながら、良き旦那として振舞おうとする澤田の男根に葉月は栞への同情を抱く。雨に濡れた栞を追いかける葉月の姿などおよそ令和の時代に観ることはなかった幻の情念が立ち昇るようだ。栞は職場では見せることがない弱気な表情を葉月に見せる。目の前には何故かラブホがあり、雨に濡れた葉月を気遣いながらシャワー浴びてく?と栞は語り掛けるのだ。欲望が勝る男の誘惑の仕方はいつも直球だが、女同士の駆け引きの妙はおよそ男には分からない奇妙な襞を見せる。スクリーンに一糸纏わぬ姿を晒すWヒロインである花澄と小宮一葉の体当たりの演技は思わず息を呑む。ロマンポルノ・ナウの3連作の中で間違いなく今作が女性の裸体の美しさをスクリーンに照射している。脚先から太もも、美しいくびれからカメラはゆっくりと昇り詰めるように女同士の美しい体を切り取る。そこには永遠のようなエロスが香る。女同士の心を蹂躙する様な澤田の自己中心的なSEXに女は抗っていくが百合の火を感じた澤田の刹那がトライアングルの均衡を大きく揺るがして行く。女同士の奇妙な連帯はいつも女の敵は女という当たり前の帰結に陥ってしまう。極めて現代的なリベンジ・ポルノといったワードを流用しながらも、金子修介の演出はあえて昭和な古典的な演出にこだわる。

 松居大悟も白石晃士もロマンポルノとは何かに拘泥したのに対し、ロマンポルノという概念を改めて考える必要のない金子修介だが、逆に現代のコンプライアンスやセクハラという概念に引っ張られ過ぎたきらいもある。澤田の妙に同意にこだわる姿勢すらも、2022年に女性たちが裸体を晒し、それを映画に撮ることの困難さが滲む。音楽もサウナのロビーで流れる様な笛の音楽がずっと流れ続け興を削がれるものの、トライアングルな女性3人の体当たりの演技が素晴らしい。
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