近本光司

夜明けまでバス停での近本光司のレビュー・感想・評価

夜明けまでバス停で(2022年製作の映画)
1.5
あのときわたしは事件のあった幡ヶ谷のバス停のほど近くに住んでいたこともあって、あの顛末には大きく心を揺さぶられた。未曾有の感染症の拡大で、社会の網目から零れ落ちてしまった人びとを主題に物語を立ち上げたことは、ひじょうに意義のあることだと思う。国会議事堂を爆発させたってかまわない。政治信条だってそう違わない。けれども映画作品としては最悪だと思った。飲食店の皿洗いに従事するフィリピン人移民の母。資本と権力に目が眩んで横暴なマネージャー。インターネットで安全な場所からヘイトを垂れ流すYouTuber。その発言に感化され右傾化するしがない中年独身男性。かつて三里塚闘争に参加していたホームレスの老人。現実の劣化コピーでしかないクリシェの連続に頭を抱えそうになった。ある意味でほとんど極右のプロパガンダ映画と遜色ないというか、左翼の衰退をひしひしとかんじてつらい気持ちになる。
 それにしてもプロダクションのレベルの低さが嘆かわしい。実力派の役者を揃えておきながら全員が大根役者に見えてしまう摩訶不思議。あきらかに作為的につくられた場所だとわかるロケ地の数々。とくに音のひどさは誤魔化せない。おおきなスクリーンで見るといろいろな粗さが目立つ。路上生活がつづいても汚れひとつない純白のロングコートを着たまま街を彷徨する板谷由夏は、あきらかにミスキャストだろう。セレブにしか見えない。
 しかしこの映画は、あの甲州街道の路上で、十一月の寒空のもと無念にして命を奪われた彼女の喪に服すものとなっていただろうか。ひょっとしたらなっているのかもしれない。わたしはここでこうして御託を垂れ流しているわけだが、彼女が冥界で少しでも報われた気持になったであれば、それでかまわないと思う。