あんず

夜明けまでバス停でのあんずのレビュー・感想・評価

夜明けまでバス停で(2022年製作の映画)
4.5
コロナ禍の、特に飲食店のパート従業員の記録としても意義のある映画だと思った。ついこの前のことなのに、私も飲食店が休業を余儀なくされていたことを忘れかけていた(正確には思い出す機会がなかったという感覚)。2020年冬に実際にあったホームレス女性が襲われる悲劇に着想を得た物語というが、その事件自体を知らなかった。

コロナにより居酒屋のパートの仕事もアクセサリー作家の仕事も失くなり、新しい仕事も見つからなくてホームレスになってしまう板谷由夏演じる三知子。感心してしまうほどのスタイルの良さだし、着ている物も綺麗なので悲壮感がはじめのうちはないのだけれど、段々と深刻さが増して来る。

こういう地位のあるクズ男を演じさせたら、今この人の右に出る人はいないんじゃないかと思う安定の三浦貴大。そのクズの恋人役の大西礼芳も久々に見たルビー・モレノもホームレスの根岸季衣や柄本明も良く、その演技に支えられて暗いテーマの作品が生き生きと感じられた。途中からのスリリングな展開も物語として楽しめた。

世の中に対する憤りを感じている人は、この映画を観て、少しスッキリするんじゃないかな。梶井基次郎の『檸檬』を読み直したくなった。

WOWOWの『東京貧困女子。』というドラマもこの映画の後に観たのだが、やはりコロナの影響で思うような収入が得られず、風俗やパパ活をせざるを得なくなった女性たちが何人も出て来た。もはや他人事ではないと思った貧困問題。この映画でもドラマでも、貧困は個人だけの問題ではなく、社会から孤立させてはいけないと強く感じた。
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