YAEPIN

遠いところのYAEPINのレビュー・感想・評価

遠いところ(2022年製作の映画)
4.8
降りたくても降りられないジェットコースターに2時間縛りつけられているような気持ちになる映画だった。
それなりに覚悟はしていたものの、体調にかなり響いた。
それでも滑り込みで鑑賞できてよかった。

本作の何より苦しいところは、暗転が多いにもかかわらず、物事が一切前に進まない点である。
暗闇が開けても、せいぜい翌日かその日の夜に場面展開する程度だ。
「それから3ヵ月後…」というように、簡単にこの現実は通り過ぎてくれない。
昨日受けた暴力による傷はそのままだし、仕事は見つからないし、お金も増えない。
地獄がさらなる地獄を呼ぶ、負の連鎖をただ繰り返し繰り返し突きつけられていく。

この地獄をもたらすものは、主人公アオイの夫マサヤか、ネグレクト気味な彼らの親か、未成年を買う男性か、はたまた教育環境か。
物語が進めば進むほど、何かひとつの問題を取り上げれば解決するという状態には無いことが分かる。
貧困も暴力も差別も、全てが構造的に重なり合ってあまりに頑丈に社会を形づくっている。
それらを根気強く、ひとつひとつ紐解いて、少しでも次の世代に積み残さないようにしなければならない。

監督のインタビューには、本作では物質的貧困だけでなく精神的貧困にフォーカスを当てたと書いてあった。
確かにアオイの周りには大人がいるにはいて、然るべき人に相談して頼れば多少なりとも解決の道は開けたかもしれない。
しかし自分が17歳の思春期真っ只中で、あの状態に置かれたとして、素直に自分の困窮を認め、文句を言われながらも援助を受けるなど到底できなかったと思う。

作中で時折航空機の轟音が響くのが印象的だったが、舞台となったコザ地域を地図で調べると、嘉手納基地と隣接していることを知った。

美しく青く光る海は、本作の中では人の足をすくいとる、生と死の境界として描かれる。

俳優陣の驚異的な表現力と唾奇の楽曲は、恐ろしく本作のテーマと符合していた。

「Hey, TAXI 私を載せ誰のネガも届かない場所へ」
YAEPIN

YAEPIN