melly

窓辺にてのmellyのネタバレレビュー・内容・結末

窓辺にて(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

今泉監督作品と知って鑑賞。とても穏やかで気持ち良い映画でした。
いつも今泉監督作品に共通して感じていることをあまり感じなかったなと思う。でもそれは、だから良くなかったとかそういうことでは決してなくて、こういうのもするんだなと思って、素敵だなと思いました。

具体的には、これまで見てきた作品は会話を楽しむような感覚がとても強いシーンが必ずいくつかあったけれど、この映画は、会話が心地よいシーンは確実にあったけれどそのことが前面に押し出されているシーンは自分としてはなかった。いつも感じるあの感じがなかった。それが隠れていたわけではないのだけれど、なんというか、とても自然だったというか、心地が良くて。長回しとかも、これまで見てきた作品は長回しだなぁ〜というのを意識する部分があったんだけれど、今回は長回ししているというのはわかって見ているけどそう見ていてもそのことがとても自然というか…とても心地よい状態だったなと思います。全てにちゃんと必要性があったというかね、存在することが自然だったというかね、なんだろう、うまく言えない。どう言っても言い過ぎる感じがするな。でも、ひとつひとつの愛おしさは全く損なわれていなくて、そのことがすごいなと思った。わたしの生きている世界は作品じゃないから、そんなに大事なことばっかりじゃないし、ただの会話、その線の上にないやりとりだってあって当たり前で、でもそのことが全く関係しないなんてことは絶対になくて、触れたものは程度の違いはあれど確実に影響してくることとかそういうこと、そういう気持ちを大事にして見ることができるというのがいままでの感覚だったのだけれど、今回は全部が大事だなって思ったっていうと言い過ぎなんだけれど、そういう、ささやかな関係みたいなシーンがわかりやすいところみたいなのがあんまりなくて、だからもっと生活に近いというか、生きている世界の感じ、線の上に乗っているとか乗っていないとかの意識って普段生きていて無いから、全部がちゃんと一つのつながりで存在するけどそこに線をひいたりしないのが生きている世界だから、なんかそういう感じがしたな。生きているっていう感じが。とても心地がよかったな。

2人が会話をするときの、それぞれの顔だけがうつるカットが好き。愛おしいと感じる画だなと思う。

内容としては、わたしは主人公の男性がとても素敵だなと思って見ていた。こんなふうになりたいなと思って見ていた。身軽であること、正直であること、善良であること、それは清潔であることであり、それは冷酷だとか他者との関係を望まないなどということとは全く違うことだと思う。サイコパスなんかじゃない。
あまりにも素敵な人間なのでみんな惹かれてしまって、それでそばにいって苦しくなったりするだろう、と思った。彼がその清潔さで人を傷つける自覚はないということも健やかすぎると思った。窓から差し込む光のやわらかさやグラスを透かした指先のきらめきがよく似合っていた。やわらかさと清潔さ。稲垣吾郎さんの演技をきちんと見るのはほとんど初めてだったけれど、本当に素敵だった。佇まいや仕草や、些細な表情の変化、それから声色なんかも全て、とても清潔さのある人だなと感じて、わたしがこの主人公にたいしてこんな感想を抱いたのはこの人が演じていたからで、他の人だったら全く違う印象を受けた可能性も全然あるのかもなということを思う。

それから玉城ティナさんもすごかったです。こんなに違和感なく見られるんだ、と思った。こんな役っていうかさ、言葉とかもそうだけど、こんな人存在していないし、したとして不自然だと思うのだけど、そのどちらでもない、本当に自然で、なんかすごかったな。とても、すごいんだと思った。

その他の人もみんなそうだけど、こんな清潔な言葉とか、こういう言葉、作品の中の言葉、現実にはないでしょうっていうような言葉って、作り物になるか、本物になりすぎる気がしていて…これまでの今泉監督の作品では、作られた自然な言葉を自然に話すからその自然さばかりが際立っている感じがあったりもしたんだけど、今回は作り物の美しい言葉を自然のものみたいに作品として受け取ることができたなと思っていて、そこがすごく、いままでと違うと思ったし、心地よかった、美しかったと感じました。でもこっちばっかり良いってわけでもなくてどっちも好きです。
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