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窓辺にてのhoshのレビュー・感想・評価

窓辺にて(2022年製作の映画)
3.6
ライターの市川茂巳は妻の浮気を知っているが、それにショックを受けることができずにいた。そんなある日、仕事で天才女子高生作家に出会い…というお話。今泉力哉監督最新作。

とても好き。だけど今よりも今後の自分にもっと必要な映画かもしれない。
実は稲垣吾郎の穏やかな声と佇まい、四宮秀俊の温かみのある撮影が心地よすぎて少し寝てしまった。観終えたあとも今の自分に必要だった!という感覚と全く分からない部分とがあって混乱したし。でもその混乱のおかげか場面について長く考えてしまって、愛着が湧いた。

ぼんやりすること、なにかを手放すこと、後悔すること、人に興味が湧きづらいこと、心が動きにくいこと、お酒が飲めないこと。日々生きていてマイナスに見られそうなことやモヤモヤを肯定してくれる作風は心が洗われる。特に主人公の自分の人生なのにどこか他人事に見えてしまう、って感覚が映画になってたのはありがたい。

ただ同時に、登場人物のほとんどは1度は自分の表現を完成できた側で、そのうえで悩んでるので今の自分には眩しいなと思ったりした。

誰にでも当てはまる感情たちだけど、それについて悩んでるのは人並外れた自己表現ができてる人たちで贅沢にもみえる。天上人の悩み感がするというか。『愛がなんだ』なんかは何者でもない若者たちのジタバタだったので、話の入り込みやすさでいったらここに違いがあるのかなと。今作には仲原くんみたいな人いないので。とっても大人な話だし、ある種遠い話ではある。

もちろん奥さんの編集に苦悩する場面や冒頭の酒場での会話のように得てしまったからこその苦しみが描かれているので決して綺麗事じゃないんだけどね。この作品が伝えたいことがより切実に響くような人間になれればいいなと思う。

劇中でも言われてたけど、文字に起こすと客観視できちゃう、イコール、この作品を見た経験も過去になっちゃうんじゃないかと思ってあまり言語化したくなかった。でもこのまとまらない感じをここに残すのも悪くはないかなと。お義母さんの撮影のシーンに顕著なように、記憶、記録すること、って映画でもあるしね。

細部は最高。パチンコの話大好き。あと彼氏。
撮影も喫茶店の光、冷え冷えとした家庭、公園。ワンカットだからこその印象的な場面だらけで眼福だった。役者は全員大好き!玉城ティナ!稲垣吾郎!さり気ないセリフが回収されていく緻密な脚本もお見事。技術的な部分が大切にされているからこそ上述したような観客の個人的な感情を引き出せるんだなと感じた。今泉監督すごい。

あとなにかしてもらった時に登場人物が必ずお礼やリアクションをするのが良かったな。それが心からでもそうでなくても。
店員さんにお礼するとか、作業を止めたことを詫びるとか、分からなそうな人に目で合図したりとか、そういうちょっとした生活の気遣いが入った作品ってグッとくるよね。
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