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にわのすなば GARDEN SANDBOXの一のレビュー・感想・評価

にわのすなば GARDEN SANDBOX(2022年製作の映画)
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帰ろうとするのに帰れない、架空の町・十函(トバコ)の磁場に囚われる不条理劇ともとれるが、同じように酒をキメつつある町に留まる『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』の寓話性と比べると、リサーチ(ごっこ)に興じたりする本作には、川島雄三『青べか物語』っぽい“ルポ・十函”的趣が。しかしそこで主人公カワシママリノのぎこちない身振り手振り・発話は、西山真来や風祭ゆき(!)、村上由規乃といった女性たちとの出会い+アルコール(安い酒!)によって、どんどん軟化していく。歩行を繰り返すうちに、足元が浮わつきだす。それが単純にとても楽しい。一方、カワシマと共に際立って異質な新谷和輝のフラフラと心許ない(若干イラつく)佇まいは、突然内向的に炸裂する。そのとき足は地面を何度も擦っている。彼に帰る場所はある?『ヴィレッジ~』は言葉に形容しがたいユニークな映画だったが、本作を観ていると「あ、このかんじ知ってる」と思うのだった。例えば遠くの人に手を振るとき。帰らないといけないけど、でも本当は帰らなくてもいい。
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