まぬままおま

にわのすなば GARDEN SANDBOXのまぬままおまのレビュー・感想・評価

にわのすなば GARDEN SANDBOX(2022年製作の映画)
4.5
黒川幸則監督作品。

寂れた街の只中でこんなにもおもしろい作品がつくれるのかと感動してしまいました。

本作の舞台となる十函は、美しい山林や海浜があるわけでもなく、かといって東京や大阪のような都市でもない。郊外地やベッドタウンというべき「なにもない」街。登場人物のアワヅが言うように「世界中の退屈を寄せ集めたみたいな町」だ。

そんな十函を訪れる求職中の主人公・サカグチ。彼女は友人のキタガワの紹介ーというより騙されてーでこの街のPR用ムービーを「映像作家」としてつくるはめになってしまう。もちろん「映像作家」であることもキタガワのでっちあげだ。彼女は目的を達成したのか、見失ったのか分からないが、それでも「映像作家」として十函をリサーチし、街の人々と交流していく。

サカグチがリサーチをしていると、「ありえなくはないけれど、起こるとは思わない」出来事が起きる。例えば、歩いていたら頭上から布団が落っこちてくる、とか。確かに起こっても不思議ではない。けれどサカグチがぶらぶら街を歩いている途中に、突然起こるのだから、驚くし、笑ってしまう。しかも出来事を通して、街の人と繋がってしまう。なぜ十函にいるのか。かつての思い出について。そんな語りが発見されてしまう。十函では一家に一台スケボーがある…。その真偽は不明だが、サカグチが酒を飲んで陽気になって、スケボーする姿は面白いし、感動するものがある。

サカグチにリサーチを依頼するタノはしきりに「愛」を口走るのだが、私が感動してしまうのはその愛ゆえなんだと思う。「なにもない」街への愛。私たちは簡単に「なにもない」といってしまうけど、そこには生活があって、生活を送る人がいる。そして笑ってしまうような出来事が確かに起こっている。そんな些細で、「誰でも撮れる」けど誰かが撮らなければ、みることができない人、出来事。それを映画に刻もうとしているのだから、愛だ。

キタガワがタトゥーで刻もうとしたのも愛だろう。「ないとされているけど在るもの」を「風化しないように形あるものにして残してお」くこと。現在に刻み続けるために、「なにもない」と忘却する前に。

キタガワのダンスが今も脳裏に刻まれている。上手くはないけれど、かつてあったことを思い出し、忘却しようと必死になっているダンスが。私はもうそのダンスに巻き込まれてしまっている。