樹

にわのすなば GARDEN SANDBOXの樹のレビュー・感想・評価

にわのすなば GARDEN SANDBOX(2022年製作の映画)
4.5
ありふれた町の風景
しかし人々の様子がおかしい。
 周りが見えていないタノ、あやしい雰囲気のニノミヤ、もう半分壊れて幽霊のようになっているキタガワ。この街には何か得体の知れない狂気が充満していて、彼らを狂わせている。
 とりわけ、あのキタガワの異常な感じは、演者の素なのかとも思えるような迫真性で、ちょっとみたことがない感じがした。
 町には明快に異常な様子はない。むしろ、特徴がなくフツーな町であることが、人物たちの言葉や引き気味のショットで強調される。
 だが、だからこそ気づかぬうちに、緩慢な狂気が根をはり巡らせたのかもしれない。いわばこの町のあまりの平凡さというか、退屈さそのものが、ある種の狂気に変容しているのだ。

ここに生きる人たちは、ある程度そのことに気づいているらしい。だが、危機感を激しく表に出すことはない。憤りもせず熱くもならずに個々が人間性を回復させようとしている。
 いまや、狂っているかマトモかというのは、明確に別れておらずグラデーションになっていて、混ざり合い、溶け合っている。
 狂気に飲み込まれてはいけない。だが、だからといって町を拒絶するのではなく、むしろ受け入れ、適応し、対象化することで抗っている。焦ることもなく、ゆっくりと変わって行こうとしている。その速度感は無理がなく自然で、希望を感じさせるものに見えた。

町に活気がなく、個性もなく、地元に誇りを持てなくなっているという状況は、実際に現実に起こっていることだと思う。しかし自分の町の平凡さ自体が問題だとしたら、それは気付きにくく、緊張感を持ちづらいものかもしれない。
この映画は町の平凡さという問題をごく穏やかに描き出して見せたことで、リアリティのあるゆるぎない不気味さを湛えている。
 もはや他人事じゃない気がしてくる。そういえば、自分は今住んでいる町に飲み込まれていないか、今の生活はこれでいいのか、危機感がない時ほど見つめ直した方がいいのかもしれない。
樹