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劇場版 荒野に希望の灯をともすのKKMXのレビュー・感想・評価

4.8
 アフガンで用水路建設に携わった医師・中村哲先生のドキュメンタリー。先生の生き様が素晴らしいとしか言いようがなく、ただただ感動しました。

 パキスタンの無医村地帯を訪れた時に、その壮絶な状況と彼らを治療できずに去らざるを得ない不条理に対して強い揺らぎを感じた先生は、その後パキスタンに渡り、主にハンセン病患者の治療に当たりました。
 さらに先生は難民の多かったアフガンに渡り、無医村での治療を続けます。しかし、いくら治療してもキリがない。干ばつで水が無いため、現地の人たちの健康な生活が脅かされているからです。
 そのため、先生は井戸掘りからスタートして、用水路建設『緑の大地計画』を実践していく、という約20年の歴史を追った作品でした。


 先生は「不条理を許せない」と言うモチベーションからスタートし、やがて「あくまで大自然が主役、人はそのおこぼれで生活しているに過ぎない」という境地に達する姿はただただ尊敬です。
 しかし、不条理への挑戦とは言え、先生は何故ここまで真っ直ぐに実践できるのか。本当に凄い。凄いとしか言いようがない。自分は社会的な変革に関心はありますが、些細なことも割とメンドーで実践できないですからね。そして、決して投げ出さず、やり切るのが凄い。本気で責任を取る姿って、世界で一番カッコいいと思います。

 先生のように我欲を越えて、人生からのメッセージにオープンに応えて行く人は心から尊敬します。先生の言葉でグッと来たのは「自分は医者なのに用水路建設をしていて、考えてみると可笑しくて笑ってしまう」です。しかも、この時の先生の表情がいつものように飄々としていて、まるで他人事のように語っているのです。自分の事業を誇るとかではまったくないんですよ。意味に応えただけですが何か?的な感覚が伝わってきて、本当に尊敬しかない。

 自分の肉体が意味に応えるための入れ物になる、この生き方こそが自分が求める理想像です。しかし、理想ということは到達できないことでもあり、中年になっても「今年こそモテる!」と煩悩に執着しまくりの自分にとって先生の生き方を真似るのは不可能だと実感しているのも事実。なので、本作を観て、少しでも先生のエッセンスを取り込み、何か目の前で具体的な不条理と出会い、何か問いかけられた瞬間に、少しでも応えられるようになろうと決意した次第であります。そういう生き方って大変ですけど爽やかですからねぇ。

 先生の「戦争よりも平和の方が力が必要」という言葉は非常に納得しました。まさに、タロットカードの『Strength』ですね。内なる獣と共存する力。それと共存できるが故に、地球の主役とも言える大自然との共存を模索できる。そして、その模索こそが大仕事であり、力がなければやり遂げられない。その力は誰かを攻撃する、支配するものではない。タロットが啓示する『Strength』こそが、荒野に希望の灯をともすことができるのだと感じました。
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