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劇場版 荒野に希望の灯をともすのchiのレビュー・感想・評価

4.5
中村哲先生については、恥ずかしながら亡くなったというニュースで初めて存在を知りました。母は亡くなった後に東京で行われたお別れ会のようなものにも出向いたほど中村先生を尊敬していました。昨年東京で公開時に、母が尊敬している方のドキュメンタリーだと見に行こうと思ったものの見に行けず、GWで帰省中に何か映画を見ようと思ったら偶然一週間限定で上映していることを知り、母を誘って見に行きました。

本当に素晴らしい方です。まず思ったのは、この方にとっては外国の他人の子も自分の子どものように見えていたのだなということ。目の前で苦しんでいる人たちを見て、どうして見捨てて行けるだろうか。何も行動に起こさない日本にいる私たちは、外国で旱魃や紛争で苦しんでいる人がいるというニュースを見ても、どこか他人事。でも、現地で人に出会えば、一人一人に人生があることを知る。一人一人に親がいて、大切な家族がいて、これまで従事してきた仕事があって、これまで生きてきた人生がある。その一人一人の命に、人生に、向き合って来られたのだろう。
だから次男が脳腫瘍で余命わずかだと分かった時も、次男も大事、でも目の前にいる子どもたちも同じくらい大事だったから、目の前にいる子たちを置いていくことはできなかったのだろう。

また、信頼を得ることの重要性、そしてそのためには真摯さが大切だということも学んだ。診療所を立てる時に長老会の許可を得に説明に行った時に、あなたは気まぐれで私たちを助けてすぐに去ってしまうのではないかと問われたシーンが印象的である。残念ながらそういう人もいるのだろう。だが中村先生は違った。このシーンは前半だが、終盤に中村先生が現地の人々に話をした時に、アフガニスタンの未来を「私たちの未来」と言った。「あなたたちの未来」ではなく、私たちの未来。アフガニスタン、パキスタンに根を張り人生を捧げた方だからこそ出てきた言葉だろう。

911をきっかけにアメリカがアフガニスタンに対して行った対テロ報復。国が国に対して行う攻撃で、実際に死にさらされるのは人間である。ただそこの国で生きているだけの何の罪もない人間である。中村医師も、アフガニスタンで生きている人々のことを考えるよう国会で求めた。大国が連なって瀕死の小国を追い詰めること。それはただ国の存亡の話ではなく、その国で生きる人々の生活や命にも関わってくるのである。

貧しい国は、清潔な水がないこと、食物がないことで多くの人が命を落とす。病気を治すことよりも、まずは生きること自体が難しい状況だった。乳幼児は尚更である。
旱魃で干上がった大地。水がなければ穀物は育たず農業をすることもできない。人々は食料を得られない。
医師でありながら、診療を辞め、用水路建設に動き出す。独学で土木を学び、自ら設計図を書いた。堰作りが上手くいかなければ、自力で解決法を見つけて、何年もかけて作り上げた。胆力に驚かされるばかりである。
用水路建設の噂を聞きつけ、出稼ぎに出た町から地元に戻り用水路建設に加わる現地の人々。自分たちで未来を作っていくという気概に胸が打たれる。

本当に素晴らしい方でした。銃撃に倒れたことが無念でなりません。でも中村先生の遺志を受け継いで用水路建設を続ける現地の技術者がいます。想いは受け継がれていくのです。
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