じゅ

ザ・メニューのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

奇妙。おもろい。好き。チーズバーガーかぶり付きテイラー=ジョイは世界遺産。

シェフのジュリアン・スローヴィクはヴォルデモート卿よりおっかねえよ。


マーゴは料理オタクのタイラーに連れられて離島の高級レストランのホーソンへ。1200ドルの船旅とコース料理を堪能しにきた他の客は、料理の著名な批評家や大物俳優など当然金持ち揃い。
シェフのJ・スローヴィクが絶対権力を握り異様なまでに統率の取れた厨房から出される料理は絶品。ただ、パンのない付け合わせだけの皿や、客の不都合な諸々が印刷されたトルティーヤなどが給仕され、異様な雰囲気が漂い始める。
メニューの一部として副料理長が拳銃自殺をしたことで一気にパニックに。帰ろうとした男の指を切り落とし、店のオーナーの男を海に沈め、別の副料理長にシェフ自らの脚を刺させ、男性客を対象とした鬼ごっこをして、タイラーに創作で料理をさせてまずいと酷評した後に自殺させる。常軌を逸した演出を交えたこの店のメニューの内容では、シェフやスタッフや客も全員死ぬことになっていた。
マーゴは起死回生の賭けに出る。シェフのもてなし方に料理を楽しめないと指摘し、しかし空腹であるということで、ただのチーズバーガーを要求する。スタッフらが見つめる中でシェフはチーズバーガーを作り、マーゴにもてなす。マーゴは食べきれないので持ち帰ってよいかと要求し、持ち帰り用の容器と土産を受け取りレストランを後にする。残ったシェフはレストランにスモアに見立てたセットを作り、客諸共火を放つ。桟橋からボートで海に出たマーゴは、チーズバーガーをかじりながら燃え上がる火を見つめる。


客のみんなも徐々に死の結末を受け入れるかんじになってって最終的にマーゴを普通に見送ったあの空気感はなんだったんだ。夢でも見てたんか俺は。

「チェダーチーズ」って「アメリカンチーズ」なんだ。へー。
まあそこはいい。


シェフとっくにブッ壊れちまってたんだ。マーゴと話してたように、初めこそ誰かのために料理しててそれが楽しかったんだそう。それが、金持ち相手の、それも時に味もわかんねえような連中の欲望を満たす重圧に苛まれるようになった。2品目の「パンは庶民に寄り添ってきた食べ物だけどあなた方は庶民じゃないからパンは出さない」みたいなあれにはそんな金持ち連中への嫌気が表れていたんだろうか。
スローヴィクシェフは最初に「食べずに味わってください」みたいなこと言ってたけど、客の中で料理を純粋に味わってた人っていたんだろうか。傲慢な批評家の虚栄心とか、女と寄りを戻したい下心とか、口を開きゃあ蘊蓄をべらべら喋りたくてたまんない不躾な見栄とか、皆そんなんの添え物としてしか料理を見てなかったんじゃないか。料理は洒落た上手いこと言って悦に浸るためのものか?一緒の女性にドヤるための引き立て用か?1200ドルちょっと支払って食いに来た連中より10ドル弱のチーズバーガーにかぶり付くマーゴの方がよほど料理をちゃんと味わっていたんじゃないか。

それにしても、写真はやめとけって言われた上でバシャバシャ撮りまくるしマーゴに出された皿に手を伸ばしてワイングラスを割るとかいう、あんな無礼で行儀の悪いクソダサホルト初めて見たな。アスリートやミュージシャンはボールやウクレレと戯れるだけだがシェフは命そのものと戯れる、ですって。なんにもやんねえ奴が知ったような口を利くために真剣な人たちを踏み台にしやがる。
君はコックだ的なことシェフに言われて制服渡されて早速何か作れと迫られて、野菜の切り方とか食材の組み合わせ方とか残念なのを「料理界の革命だ」みたいなことを言われて茶化されて、よく喋るくせになんもできねえところを徹底的に晒し上げられるところは滑稽だった。まあ正しくは滑稽なのが半分と、なんか小っ恥ずかしいようないたたまれないような気持ちが半分かな。

シェフは料理を料理そのものでなく別の欲の踏み台にする奴らを選んで集めて罰したんだろうけど、料理そのものでなく料理を作った自分自身を崇拝したり利用する奴らも鬱陶しかったんだろうな。それこそタイラーとか、スローヴィクと友人だとか大ボラ吹いて来たなんとかドクターサンシャインの大物俳優とか。
チャカ副長もそうか。スローヴィクの名声に憧れて来た彼は、確かに優秀だが偉大にはなれないとシェフが言い放つ。
勝手に心酔して、勝手にその名を利用して、勝手に羨望して、そんなんがまたシェフへの重圧を強める。実際にシェフの下に就いた副料理長を待っていたのは失望ばっかりだったか。シェフに私の才能でなく生活が欲しいかと問われて、副料理長はいいえと。悲しいながら、シェフの精神を蝕んだ重大な何かを知ってしまったんだな...。


男性限定鬼ごっこはこれまた滑稽。あれは副料理長(女性)による「男の過ち」という料理の演出の1つだったか。過ちってのはここでは女性関係のことだったよう。
シェフもまた過ちを犯した1人。この副料理長に2度も言い寄った過去があり、その禊でか大腿に小さな鋏を刺される。(たぶん、シェフの父親が母親の首に電話線を巻いて絞めたのをやめさせるためにシェフが父親の脚を刺した、っていう話が禊のモデルか。)
一緒の女性にさっきまでカッコつけてた男性らはどうだろう。どうやらこのレストランのシェフは自分達を本当に殺す気らしいと知った後だったから、彼女らを置いて必死こいて逃げる逃げる。闘うこともできたのにと後々シェフに言われるように、あと海没オーナーの部下同士がついて来るなみたいなこと言ってたように、いざとなれば己だけでもリスク無しで状況を脱しようとする。まあ命が懸かればそんなもんかとは思うけど、これらの行為が指し示すこの手の男たちの実態というか皮肉というか、そんなんがおもろい。


一方でシェフ側はどうだったんだろう。彼らの態度は料理に対して誠実だっただろうか。
マーゴがシェフ仕草みたく手を叩いて言い放ったことが全てじゃないか。籠っているものは愛情でなく執着。熱い料理も冷めて感じて、要はこれらの料理は好きでない。
シェフは愛情は最も重要な要素だと言っていたけど、見失っていたのか。マーゴに要求された何の物語もおしゃれ盛り付けも無いただのチーズバーガーとポテトと、それをただ頬張る彼女の様子は、シェフが失った(作中の表現を借りるなら「奪われた」)ものを多少取り戻させたのかもしれん。


まーなんというか、
やっぱラーメン屋くらいがちょうどいいなあ...。
じゅ

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