悪魔の毒々クチビル

ザ・メニューの悪魔の毒々クチビルのレビュー・感想・評価

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
3.7
"The worst part is I'm still fucking hungry."

有名シェフのコースメニューを食しにとある孤島までやって来た人々が体験する恐怖のお話。


アニャ・テイラー=ジョイが出ているから、が割とメインな理由で観に行って来ました。
内容自体はまぁ、風刺をガッツリ込めたスリラー映画って感じでしたが調べたらジャンル的にはホラーコメディらしいです。
確かに監督は最近TLで何度か見掛けた「運命の元カレ」のマーク・マイロッドではありますが、コメディとして考えると俺は笑えた所は無かったし劇場でも笑いは起きていなかったのでそこは期待しない方が良いかもしれませんね。

細かな風刺や描写の解説なんかは後から知ったものが多かったってのもあって、ここでは省きますが(面倒くさい訳じゃないよ本当だよ)アニャこと主人公マーゴの恋人であるタイラーは分かりやすいキャラなんじゃないかなと。
豊富な料理の知識をひけらかしシェフのスローヴィクの料理や世界観を崇拝している一方で、自身は何も調理出来ないという。彼の末路が一番印象的でした。
好きなものについて誰かに語る時、ここのバランスって大事ですね。
明らかに様子がおかしくなって戸惑う周りを余所に一人料理に夢中になっている所とか、こっち側ではぶっちぎりで狂っているキャラでした。

今回のスローヴィクによるフルコースは料理だけでなくゲスト含め完全に計算されたものでしたが、マーゴだけ急遽参加という形になった為スローヴィクにとって彼女の存在は違和感しかないんですよね。
マーゴはマーゴで奇妙な料理ばっか出すスローヴィク達に対して反感を抱いていて、この二人のたまにあるピリッとしたやり取りは良かったです。

一方で他のゲストも各々抱えているものがあって、それがスローヴィクのフルコースが語る物語でもあるんですけど正直ここは引っ掛かるというか。
一部呼ばれた理由は分かる人も勿論いるんですけど、例えばあの落ち目のベテラン俳優に至っては清々しい程の逆恨みじゃねぇかと。
仮にも他の料理人達が崇拝する最早カルト集団の教祖と化した唯一無二のカリスマ性を誇るシェフなんだから、もう少しあの寄せ集め感は何とかして欲しかったです。
レイフ・ファインズの演技自体はとても良かったですけど。
彼の行動には一切共感出来ませんが、徐々に狂っていく理由はしっかり汲み取れる作りになっていましたし。
確かに毎回あれだけ味だけでなく見た目にも手間掛けて出した料理を当たり前のようにパクパク食べられて、挙げ句何食べたかもすぐ忘れられるっていうのは虚しい所はあるかと思います。
だからこそ最後のマーゴにアレを振る舞うシーンは、シンプルに料理してお客さんに味を褒めて貰うと言うあの流れはスローヴィクには救いにもなったのかも知れない。

全体的に無駄のないお上品な雰囲気が漂っていますが、各料理にストーリーがあるとは言えよく考えるとめっちゃふざけたフルコースだったし最終的に食べさせる気すら無い内容だったしで、振り返ってみると緻密に作られたバカ映画っぽい気もしてきました。
それでもアニャの存在感は抜群に際立っていたし内容自体も悪くないので、割と満足でした。