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カラオケ行こ!のしののレビュー・感想・評価

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
3.2
なんだこのお花畑なヤクザ描写は? なんだこの異常な事態は? これ面白いやりとりとして描写してるのか? こんな陳腐な悲劇展開やるのか? とかずっとハテナが浮かんで終盤まであまり入り込めなかったのだが、あのクライマックスを契機になんか悪くないなと翻意してしまった……。なかなかおかしな体験だった。

まず、中学生とヤクザがカラオケに! というシュールなシチュエーションがあまり活きていないように思う。露骨にウケを狙った演出をしないのは好感だが、かといってそこにおかしみが出ているかというとそうでもない。というのも、主人公はなんか萎縮しすぎているし、綾野剛はねっとり迫りすぎなのだ。だからあまり会話にテンポが生まれない。序盤なんて、急にヤクザにカラオケに誘われて紅の熱唱を聴かされるというシチュエーションが、シュールというよりただただ気まずい時間にしかなっていない。はじめは萎縮しているけど歌のことになるとヤクザ相手でも直截にものを言う……みたいなギャップのおかしさや関係性の変化もそこまで感じないし。ここが結構勿体なかった。だから単に事態の異常さの方が気になってしまうという、なんとも言えない時間が続く。

そのため屋上のシーンとかも、別にやりとりがそこまで面白いわけでも、かといってエモーショナルに見えるわけでもないので、なんだか遠くから眺めるだけになってしまう。うまくハマれば、尊い関係性を「眺める」目線として有効なのかもしれないが、自分はただ傍観するだけになってしまったというのが正直なところ。

しかし、あのクライマックスの熱唱にはその辺りを強引に許せるパワーがあったと思う。側から見たらそうでもなくても、この子にとっては大切な時間だったんだということが無理やりわからされるというか。これと連動して、その手前の超絶凡庸な悲劇展開も、中学生らしい空回りの表現として見ることができるし。

そしてここに至って、この話は青春という失われゆくものと、古いヤクザや古い映画館、古いカラオケという失われゆくものとを重ねてたんだなと分かる。部活という青春の王道ではなく、そこから逃避している場面をメインに描写し続け、そういった逃避先での出会いや成長も含めて儚い青春であるとしているところに、本作独自の味わいがあるのだ。ヤクザとカラオケしてた時間が長いのに、振り返ってみればめちゃくちゃ「合唱部部長の青春」の話だったなと思えるのは、そういう構造があるからだろう。

ただ、じゃあ合唱部でのドラマはああいう着地でいいのかというと微妙だし、特に和田との決着はそれでいいのかと思う。あと、やはりヤクザというものが最後まで主人公のための都合のいい逃避先でしかないのは気になる。たとえば、狂児目線ではあくまで基本的にはなりふり構わず主人公を利用しただけなのだ、というドライさが徹底されていれば良いバランスだったのではないか(大人はズルいという話も出てくるし)。

その他、熱唱の最中にネタバラシのワンカットを挟む演出が意味不明だとか、そもそもこの主人公がヤクザ達の“先生”たりうる説得力がなさすぎるとか、ポストクレジットで結局ヤクザを主人公にとってどういう存在にしたいのかがよく分からなくなるとか色々あるのだが、BLを変則青春映画に落とし込んだ意外な作品としては楽しめた。

※感想ラジオ
【ネタバレ感想】原作未読だと飲み込みづらい?『カラオケ行こ!』に感じた実写化の難しさ https://youtu.be/XFHLDyMT0lk?si=RAiWIvGu6i3b3zVE
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