ソウキチ

カラオケ行こ!のソウキチのレビュー・感想・評価

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
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漫画原作の脚本について語るにはかなりセンシティブなタイミングだと思うが、この作品の野木亜希子脚本の仕事こそが最適解を示してくれてるように思えてならない。

漫画の実写化になると必ず湧いて出る原作ガーの連中はどうにもキャラクターのルックやストーリーの忠実さを躍起になって求めがちだが、私は全然そうは思わない。要は原作の精神を理解し別のアートフォームに落とし込むセンスと技術とリスペクト。必ずしも原作に"忠実"でなくとも、創造主たる原作者に顔向けできるモノを作れるかどうかだと思う。たとえばエヴァンゲリオンを実写化したとして、綾波の髪色をブルーにしてしまうとする。表面的には原作通りかもしれないが、圧倒的にセンスがない。「原作通り」が裏目に出て、それだけで見る気が失せてしまうと思う。

話が脱線したが、この『カラオケ行こ!』はその辺の取捨選択の塩梅が抜群に巧いと感じた。だからこその高評価なのだと思う。
2時間尺の映画ならではのイニシエーションの描かれ方。巻き戻し機能が壊れたビデオデッキが象徴する青春の不可逆性。コメディリリーフかと思われたX JAPAN「紅」の意味が変わる終盤での歌唱、その途中で起こる必然的なメタモルフォーゼ。巧い。

過不足なく優れた脚本と俳優をまとめる山下敦弘のディレクションの安心感もさすがのベテランである。

私も芳根京子が顧問の部活に所属して、面倒見が良すぎる副部長に苗字呼び捨てで呼ばれたい人生でした。あと文章のどこかにこれが本当の『やくざ絶唱』って入れたかったけど、あんまり浮かばなかったので一応書かせてください。
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