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カラオケ行こ!のtekeroinのネタバレレビュー・内容・結末

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます




 色んな見方を許容する、とても豊かな物語を映す傑作だと思いました。思いつくままに挙げてみれば、本作は以下の様に語れると思うんです。
 例えば、



 ①変声期を迎えて、ソプラノパートを以前のように歌えなくなったことで合唱部に居場所を見つけられなくなった聡実君と、「ブラック企業」と仮称しなければならないぐらいに目立ったことが出来なくなり、南銀座という寂れた場所で活動するヤクザの若頭補佐として生きる狂児の二人が、カラオケボックスという場所でなら社会的立場や年齢といった違いに関わりなくそれぞれに楽しい時間を過ごせるというドラマを描き、人間関係の妙味を描くという一風変わった社会派な物語。



 ②聡実君が所属する合唱部で重視される歌の技術と、ノリが命のカラオケでの歌唱を両極におき、狂児たちの組が主催するカラオケ大会で聡美君が披露したあの『紅』の熱唱を通じて芳根京子さん演じるももちゃん先生がしきりに口にしていた「愛だよ、愛!」の意味を成就させ、高校生になっても歌を続ける期待を観客に抱かせる聡実君の成長譚を描いた作品。



 ③第二次性徴期を迎えて濁り出した自身の声にコンプレックスを感じているために「大人になること」を上手く受け入れられない聡実君が、地獄行きが決まっていると自分でいうぐらいに真っ黒な人生を歩んでいながらもカタギの世界との間に引いた一線を頑なに守り、中学生の自分にも真っ直ぐに向き合ってくれる狂児の姿に何か大切なものを見つけるというBoy meets YAKUZAなヒューマンコメディ


 という具合に切り口次第で色んな感動が溢れてきます。
 これは原作の面白さを証明するものであるのと同時に脚本を務められた野木亜紀子さん、そしてメガホンを取った山下敦弘監督がどれだけ質の高い仕事をしたのかという映画制作において重大なポイントを如実に語るものだと思います。本当にね、とってもとっても面白かったんです。



 演技に関しては狂児を演じられた綾野剛さんに匹敵するぐらいの存在感を見せてくれた聡実役の齋藤潤さんを大絶賛したいです。
 心身ともに大人の階段を登り出したばかりの聡実君が抱えるアンバランスさを身振り手振りではなく、何もしない時の佇まいや狂児に向ける言葉の一つひとつで演じられていました。聡実君の出来次第で大崩れしてもおかしくないぐらいに本作の要となる重要な役だったのは観ていて分かりましたから、相当な重圧だったと想像しますが、見事にやり切られていましたね。いやー、すんごかった。ファンになりましたもん。
 脇を固める面々も個性的で良かったです。特に合唱部の部員たちはどこにでもいる感じの見た目なのに、映画を賑やかすキャラクター性が表情や仕草に表れていて好感を抱きまくり。登場人物の撮り方に定評のある山下監督ならではの映像表現。本作を観たことで監督の最新作、『水深ゼロメートルから』も観ようと思えました。青春群像劇に欠かせないものをしっかりと見ておられる。巧み。



 タイミングが合わなくて劇場で観れなかったのですが、いやー、マジで後悔しています。「配信でもいっか」は絶対に良くないと本作を通じて学びました。今後は意地でも時間を作って気になる作品を1本でも多くスクリーンで拝見しようと思います。お勧め!
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