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カラオケ行こ!のたくのレビュー・感想・評価

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
3.6
合唱部の中学生男子がヤクザにカラオケで歌を教えるという突飛押しもない筋書きに、思春期の少年の成長という普遍的な要素が盛り込まれててほっこりした。山下敦弘監督は「苦役列車」や「もらとりあむたま子」が良くて、こういうユルい日常系が作風に合ってると思うけど、本作はちょっとセリフのテンポが悪くてダレ気味に感じた。あと原作がどういう設定かは置いといて、まず歌が下手なはずの狂児の歌が全然下手じゃなくて拍子抜け。これは単に曲と声域が合ってないだけで、後半は普通に歌えてるし、今一つ話に乗れず。終盤の「紅」にはグッと来た。綾野剛のヤクザ演技はちょっとステレオタイプに感じたけど、人情味が滲むところが良かった。

組長のカラオケ好きが高じて毎年開催されてる組のカラオケ大会で、最下位になった者が受ける恥ずかしい罰を恐れたヤクザの狂児が、偶然通りがかった中学校の合唱部の歌声を耳にして部長の聡美に歌のレッスンを依頼する。この時点でもう話がぶっ飛んでるんだけど、聡美がいやいやながらもカラオケボックスに入り、狂児の歌にアドバイスをしていく様子がユルい感じで展開していく。そのいっぽうで、聡美が声変わりのため合唱のソプラノパートを歌えなくなるという悩みを密かに抱えてて、ストイックな後輩の和田から練習に真剣に取り組んでないことを責められる。この合唱部のくだりが最後まで中途半端なまま終わるのがモヤモヤした。

聡美の声変わりは彼の人生における過渡期を象徴してて、狂児との交流を通し、ある種の「大人の世界」(言ってもヤクザなんだけど)に触れることで一歩進むというのが人間ドラマの軸になってた。合唱部に顔を出さなくなった聡美が廃部寸前の映画部にお邪魔して古い映画を観てるのが何ともいい感じで、「白熱」「カサブランカ」「三十四丁目の奇蹟」「自転車泥棒」とクラシック映画の名作が目白押しなのがテンション上がる(これには「ハーフ・オブ・イット」を思い出す)。聡美が「三十四丁目の奇蹟」のあるシーンを観て「夢がないなあ」って言ってたけど、同作は本物のサンタを自称する男がその真意を疑われて裁判に発展するという話で、サンタが実在するかしないかの絶妙な匙加減が最高なんだよね。
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