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エマ 晒された裸体のesのネタバレレビュー・内容・結末

エマ 晒された裸体(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

窓の内側で繰り広げられる男女のロマンスと外側で起こるスリラー、女性視点と男性視点の切り替えのバランスが素晴らしい。
女性視点では、昨日まで人として扱われていた存在が突如モノとして扱われるという恐ろしさが描き、それと並行して男性視点では、出会い近づき壁にぶつかるが乗り越える男女のロマンスを描くという、スリラーとロマンスのマッシュアップ作品。


チェコ・スロバキア共和国の初代大統領であったトマーシュ・マサリクは、「売春をなくすべきであれば、人を貶めるような貧困をなくさなければならない」と述べて売買春を必要悪とする主張を否定した。
しかし社会主義共和国時代を経てキリスト教教会は力を失い、信仰の自由を得た筈のビロード革命後も宗教を持たない人々は増加した。売春は観光経済に潤いを齎し、様々な要因が重なりチェコにおける性産業は活性化した。


今作ではかつてポルノに出演した過去のある女性が、信仰者である母親に軽蔑され、恋人に批判され、周りの男性達から性的対象化され、友人には忌避され居場所を失う様が描かれる。
売るという行為は買う相手がいなければ成り立たない。売買という行為は基本的には双方が対等な立場である時に成り立つ。しかし買う者達は売春者達を対等な立場として見てはおらず背後にいる存在を対等な立場だと見なし、目の前にいる存在をモノとして消費する。
この作品は、売春は女性蔑視か人権か、という疑問に対してそもそも買う側がモノとして見做している時点で人権もクソもないと答えているように思える。

ロマンスのシークエンスで重要な役割を果たす "窓" の存在が印象的だった。内と外を隔て、窓の内側はある程度の温度を保つ比較的セーフティゾーンを示している。窓のシーンだけを繋ぎ合わせれば、普通の恋愛映画のようになりそう。
多肉植物愛好家の彼がプレゼントするリトープスにもメタファーを感じた。リトープスは周りの環境に合わせて擬態し、脱皮する事で生まれ変わる。また、割れ目から咲く花の形態は冒頭のポルノシーンを想起させる。
リトープスの葉の紋様は「窓」とも呼ばれているが、そこまでは流石に勘ぐり過ぎかもしれない。

この監督や脚本家の他の作品も見てみたいと思える作品だった。
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