幽斎

キラーカブトガニの幽斎のレビュー・感想・評価

キラーカブトガニ(2021年製作の映画)
3.6
「生きた化石」カブトガニが放射能の影響で凶暴化、人々を襲う惨劇を描いた奇想天外モンスター+パニック+コメディ。全く無名のPierce Berolzheimer監督作品。2023年9月30日に閉館。京都のミニシアター、みなみ館で鑑賞。長い間、お世話に成りました。

世界から珍作を集めるエクストリームと言う世を忍ぶ仮の名前「TOCANA」。凄いのは配信で垂れ流すのではなく、堂々の全国ロードショー。採算など取れる訳が無い謎会社。レビュー済「シークレット・マツシタ/怨霊屋敷」「ハングリー/湖畔の謝肉祭」未だ程度の良い方で中には「野良人間」「人肉村」「食人雪男」一体誰が見るんだろうと首を傾げる、隙間の狭い好事家狙いの作品が多く、一方でレビュー済「PITY ある不幸な男」私の様なスリラー専門を唸らせる作品も有るので無下に侮れない。

「ジョーズよりも凶暴で、ゴジラよりも食欲旺盛、放射能の影響で突然変異した巨大カブトガニが巻き起こす、人類滅亡の危機。映画史上初のカニ沸き、肉躍る衝撃と興奮。いまだかつて誰も見たことのない超絶に面白い海洋モンスター映画がやってきた」公式のイントロダクションだが、鑑賞後に具に確認したけど一字一句、嘘偽りが無い(笑)。文字通りモンスター映画ファンなら「コウ言うので良いんだよ!」大合唱だろう。

原題「Crabs!」感嘆符が付く作品も珍しいが、複数形なので「大きな蟹」。京都の大学で病態生物学を学んだ友人に依れば、カブトガニは正しくはTachypleus tridentatus。カブトガニ類(ザックリ分けて6種類)、カニと名づけられるが、蜘蛛や蠍の「鋏角類」に分類、節足動物だが甲殻類である蟹ではないらしい。国際的にも絶滅危惧種に指定されるが、カブトガニの血液には希少な特性が有り医療現場で使用された。

秀逸なのは監督初挑戦のPierce Berolzheimerが、2本のプロデューサー補で稼いだ金を全額投入、当然足らないので大借金して創られた自主映画。しかし、作品の骨格は意外と真面目、プロット的には廃炉に為った原発が爆破されたカリフォルニアの海辺で行方不明事件が続発。当初は人喰いザメを疑うが、食べたのはサメではなく放射能の影響で殺人カブトガニが巨大化、町は壊滅の危機に陥る・・・完全に80年代のSF映画(笑)。下品な笑いに昇華したのは、監督の下品なセンスの賜物だろう。

カブトガニの血液が医療で使われたと申し上げたが、もう少し掘り下げて言うと血液から得られる抽出成分、菌類β-D-グルカンの内毒素と反応して凝固するので、医療現場では絶滅危惧種に指定されるまで、大変重宝した。カブトガニの血液が銅を含んだ「青色」と言う特徴的なアメーバ細胞が含まれる。アメリカではカブトガニが乱獲され、必要な血だけ抜かれ、残骸は海に捨てられ環境問題に発展。日本の様に生物を敬う概念のないアメリカでは常識でも、私には目と耳を疑う行為。本作がゴジラをイメージして創られたのも、決してアホでもバカでも無い。

サメ映画に在りがちなお座なりドラマも手抜きは感じられず、車椅子のサイエンス・オタクの恋物語とか、母親と保安官の兄との発展振りを見ると別な意味で充実。カブトガニが戦うだけでお腹一杯なのに、恋愛パートだけでは心配なのか、日本が誇るキャラクターまで登場するので、早送りが許されない劇場でもエンドロールまで楽しめる、監督のサービス精神には謹んで座布団を一枚(笑)。

サービス精神が最大限に発揮されるのが、後半に登場する「アレ」(阪神タイガースではない)巨大なカブトガニでは無い。言われて見れば伏線は確かに有ったけど、流石の私もアレを予想するのは無理。観客を飽きさせない工夫は、アレも含めて日本へのリスペクトを随所に感じた。広くない劇場だが、女子高校生が笑い転げる様子を見て、不思議と私も「コレって傑作じゃない?」錯覚する気分に浸れた。おバカ映画の迷作「アタック・オブ・ザ・キラー・トマト」思い出したが、リスペクトしてくれた監督の為にも日本は「大怪獣のあとしまつ」何か創ってる場合じゃない。邦画は猛省すべきと思いながら、心地良い風と共に車に乗り込んだ。貴方も、きっと劇場で観なかった事を後悔する(笑)。

おバカ映画にJessica Morris?で驚いたが、サメ映画は終わった、時代はカブトガニ!?。
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