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FALL/フォールのJFQのネタバレレビュー・内容・結末

FALL/フォール(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

この設定を見つけただけでもう「合格点」だろう。
タワーの上に行くと動きがなくなるので、そこに行くまでに「ストーリーの種」を撒いておかねばならないが、それも割とウマくいってたと思うし。なので、あまり深く考えることなく恐怖を楽しめた。

けれど、その一方で、こうした作品にこそ「社会の無意識」が深く刻まれるということもあって。それで言えば、アメリカ人が今、自国に対して「ぼんやりと感じていること」が反映されている作品だとも思えた。
つまりは「アメリカの自画像」のような映画だなと。

確かにアメリカは、二度の世界大戦を優位に乗り切り、ソ連との冷戦という覇権競争にも勝利した。そして、1990年代以降は「世界の警察」にまで上り詰めた。

けれど、2001年、その上昇の象徴ともいえる2本のタワーが「奇襲攻撃」により、へし折られた。

それ以来、奇襲攻撃への対応や、新たな「敵」(中国)の台頭などにも悩まされ、かつての栄光を失いかけている。つまりは、上り詰めた場所から滑り落ちようとしている…

そんなアメリカの「無意識の恐怖感」が反映されているように思えたのだった。

そこで、映画(アメリカ)は、失った自尊心を取り戻そうと試みる。
愛する彼氏をクライミング中の「転落事故」で失った女性の物語を描くことによって。

女性は再起をかけるため、友人の「危険大好きユーチューバー」と共に大胆な行動に出る。それは600mもあるテレビ塔を上ること。

けれど、テレビ塔は過去の遺物となって久しく、至るところが朽ちている。かつて多くの人々が1つの映像を観て盛り上がった「国民国家の象徴(TV)」は、すでに錆びだらけとなっていた。

そんな「過去の遺物」のはしごを上り、塔の頂を目指す2人。けれど、上ってはみたものの、自尊心を取り戻せた時間は短い。登ってきたはしごが崩落…。その後は「落ちるかも…」という恐怖の時間が続くのだった。

そこでは、かつて「人々を温かく包んでくれた」コミュニティーも機能しない。いるのは、助けを呼んでも、2人の車を奪って逃げ去る「クズ」だけとなっている…。

また、シリコンバレーなり、GAFAMなりが作り出したテクノロジーも当てにならない。持参したドローンやスマホは、バッテリー切れや、電波不足に悩まされる。。

それどころか、彼氏と友人ユーチューバーの「過去の情事」など、気が滅入る話まで浮かび上がってくる始末…。

こうして、自尊心を取り戻す試みは、ことごとく今のアメリカ社会によって打ち砕かれていく。国も、地域も、テクノロジーも、SNSも、当てにならんと来ている。アメリカ人が「ぼんやりと抱く恐怖」が浮かび上がる。

そして映画は、主人公の女性が、命からがら帰還するところで幕を下ろす。「結局のところ、頼れるのは自分と家族やね」と。そんな感覚を映し出し終わる。不貞を働いた輩はこの世から消され、家族の絆だけがピュアなものとして浮上する。

ものすごく保守的なところに落ち着いたなと。

けれど「国も、地域も、テクノロジーも、SNSも、当てにならんし、なるのは、自分と家族だけ」という感覚、「そこに着地するしかない」という感覚は、わからんでもないと思う。それでいいかは別として。

いや、そんなことを読み取ってほしい映画では絶対ないんだろうけれど。。(笑)
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