KUBO

AKAIのKUBOのレビュー・感想・評価

AKAI(2022年製作の映画)
4.0
今日の試写会は『AKAI』完成披露試写会。

見る前に思った「なんで今頃、赤井英和のドキュメンタリーなんだ?」という疑問は、上映前の舞台挨拶で全てわかった。

こんな爽やかで感動した舞台挨拶は初めてだった。

「なぜこの映画を撮ろうと思ったんですか?」という質問に、「コロナ禍で家に閉じこもっていて、今、何ができるだろうと問い続け、お世話になった人のために何かできないかと考えた時に、一番お世話になった父の映画を撮ろうと思いたった」と言うのだ。

監督である赤井英五郎は赤井英和の息子さんだ。父への感謝を込めて映画を作ろうという思いに「なんて素晴らしい息子さんだ」と、舞台挨拶の段階でじーんときた。我が息子とほぼ同じ歳なんだが、爪の垢でも煎じて飲ませたい。

さて、若い人は「ボクサー、赤井英和」を知っているだろうか? 「難波のロッキー」と呼ばれた昭和の名ボクサーだったのだが、引退後はタレント・俳優として活躍しているので「アリさんマークの引越社」のおじさんくらいに思っているかもしれない。

本作は、その「赤井英和」の、ボクサー時代から引退、そして復活までを追ったドキュメンタリー。

最初に言っておくけど、これは素晴らしいドキュメンタリーだった。政治絡みとかではないけれど、今年のドキュメンタリーの中でも出色の出来! 文化映画の賞レースに絡んでくるかもしれない。

人気者の赤井英和だから、当時の試合映像やインタビュー映像は豊富にある。それにコロナ禍の自宅で英五郎監督がインタビューした新しい映像と、さらに阪本順治監督から許可を得て『どついたるねん』からの映像を加え、編集されているのだが、

赤井英五郎監督、とても、これが初めてとは思えない素晴らしい出来だ。

連続ノックアウトで向かう所敵なしの若い時代から、世界タイトルへの挑戦、生死を彷徨った手術から奇跡の復活まで、88分、本当にムダなくテンポよくまとめられている。

昇り竜のような勢いの、当時の赤井英和のボクシングは、まさにケンカボクシング! デフェンスなど考えずにどつきまくる! 「精錬」とは真逆の「野生」そのままのファイトスタイルに、過去の試合映像だとわかっていても胸が踊る! ワクワクする!

特に、世界戦第6ラウンドの凄まじい攻防は最近のボクシングには見られない野生と野生のぶつかり合い。英五郎監督が特別にビル・コンティから許可を得て使った『ロッキー』の音楽とも相まって、胸が熱くなる!

そして頭部に大怪我をしてからの奇跡の復活。手術による生存率20%という過酷な状態から、『どついたるねん』での俳優デビュー。決してあきらめない赤井英和の人生は、まさに波瀾万丈! この『どついたるねん』でキネマ旬報賞の新人男優賞を受賞し今に至るのは、我々映画ファンのよく知るところだ。つい先日も『ねばぎば新世界』が公開されたばかりだが、早くもご本人のドキュメンタリーでまたお会いできるとは。

上映終了後、なんとロビーで赤井英和さんご本人がお見送りしてくださった。一言、二言、お話させていただいたが、ほぼ同世代のヒーローはまだまだ輝いている。

蘇った赤井英和のファイトに、息子の英五郎監督の父への思いに、感動した一夜であった。
KUBO

KUBO