木蘭

オルガの翼の木蘭のレビュー・感想・評価

オルガの翼(2021年製作の映画)
4.2
 少女のアイデンティティをめぐる物語(つまりある種の青春映画)を通してマイダン革命を描く。

 てっきりウクライナ映画かと思ったら、フランスの新人監督による作品だった。劇中の大部分もスイスが舞台。
 こういう当事者じゃない人間が作った物語は、一面的で安っぽい話になりがちだが、そんな事は無く、多くを語らないが複雑な状況で進行したマイダン革命を比較的冷静に観察していた。

 というのも、中心になる役どころを演じた少女達が俳優ではなく本物の体操選手で、セリフに重きを置いた作劇が出来なかった為、物語を作り込む様な手法を取れなかったのも功を奏していると思う。
 勿論、劇映画なのだが・・・アスリート達による本物の体操演技と、実際のマイダン革命の映像が多用され・・・どこかドキュメンタリーっぽい緩さも併せ持っている。
 その緩さ故に、分かりやすく明確でエモい作劇になっていない事に少し物足りなさを感じると同時に、複雑で多面的な政治状況を受け止めて、行間で考えさせる余地を残しているのが良い。
 この辺はドキュメンタリー映画を制作した経験のある監督の手腕だろうか。

 言語を用いた演出が巧みで、ヒロインとウクライナのチームメイトとが会話する際に、ロシア語からウクライナ語に切り替わるタイムラグだとか、フランス語とドイツ語が公用語のスイス代表チームの中で少数言語のイタリア語を使うグループがいたりする部分で、さりげなく意識や気持ちの動きが表現されていて静かに感動した。

 ヒロインもロシア代表チームに移籍したコーチも、失敗国家のウクライナを見捨てて出て行った事には変わりないし、当時のヤヌコーヴィッチ政権も親露政権では決して無かったし、民族主義や地域主義など様々な勢力が絡み合う複雑な物語がウクライナにはあったのに、ロシアへの抵抗と国民国家いう一本の物語に集約されていってしまう様子が、この作品からも理解出来て、とても悲しい気持ちになってしまった。

 しかし間近で見る体操選手・・・スゲぇマッチョでビックリした。
 因みにヒロインを演じたアナスタシア・ブジャシキナさん。引退後はサーカスの団員になって、現在は避難先のスイスのサーカス団にいるらしい。
木蘭

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