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丹下左膳餘話 百萬兩の壺のtakatoのレビュー・感想・評価

丹下左膳餘話 百萬兩の壺(1935年製作の映画)
4.1
 ちょうど戦前から戦中にかけての映画史の本を読んでいたので視聴。夭折の映画人として伊丹万作に並ぶ山中監督の代表作。丹下左膳作品といえば、伊藤大輔×大河内のコンビが代名詞であった状況の中で、本作はそのパロディーといっていいような内容になっている。


 殆どチャンバラシーンはなく(終盤にあったのだが検閲でカットされている)、日常コメディーものとしてとにかく気楽にほのぼの楽しめる作品になっている。丹下左膳は本来の怪剣士ぶりは皆無で、トラさんみたいな駄目だけど愛嬌がある居候のおじさんと化している。


 疑似家族ものといえるようなタイプだけれど家族愛で泣かしにくる感じではなく、ダチョウ倶楽部の如きフリとその回収のワイプ芸の天丼が冴え渡っている。30年代の作品だが、時代劇を現代風にする挑戦は当時から行われていたので殆ど楽な現代語で喋っているのも見易い。時代劇といえば固定化された様式の世界というような認識があるが、実力ある監督にかかればいくらでも自由に羽を広げられる。


 とてつもない大傑作とは思わないが、やはりこういう貴重な作品を見れるのは意義深いことだ。日本の戦前の傑作は本当に喪われてしまっているものが多い中で、発見と復元がいかに大変な事業かについては「映画探偵」という本が実に面白かった。
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