レインウォッチャー

マチルダ・ザ・ミュージカルのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

3.5
『チョコレート工場の秘密』『魔女がいっぱい』でおなじみ、Pure Imaginationの宝庫ロアルド・ダール原作の『マチルダは小さな大天才』。長く読み継がれるキュート&ストレンジな児童文学の名著で、今作は2010年に作られたミュージカル版の映画化となる。

1996年に作られたダニー・デヴィート監督&出演版の映画『マチルダ』はわたしの原初的な映画体験のひとつで、TV放送か映像ソフトだったかも定かではないのだけれど、いくつかのシーン(特にやはり脳筋鬼校長ミス・トランチブルのヴィジュアル)は強烈に頭に残っている。
その補正もあってか今作は全体としてソフトな印象が残ったけれど(なんだかんだエマ・トンプソンはエレガントなのだ)、いまちびっ子たちと観るにはこの上なくカラフルで素敵な作品になっている。

オトナどもの圧政にキッズが立ち上がるという、さすがパンク原産国イギリスらしい王道の「School's Out」モノであるのは言うまでもなく、どのキッズもやたらと顔がイイ。絶妙なクソガキ感がたまらない、見事なキャスティングである。規律の象徴として示されるスペリング(綴り)を伏線とした回収(およびそれ関連の楽曲たち)も爽快。

加えて、中でも原作や'96年版映画には(確か…)ない、ミュージカル版から足された要素に大きな価値がある。
それはマチルダがサーカスの曲芸師にまつわる物語を創作して大人たちに語り聞かせる、という点。ストーリー上ではその物語が劇中でとある人物の人生と重なり、マチルダとその人物を結ぶ絆となっていく。

ここには「物語」、つまり映画や小説や漫画や…といった創作物全般が持つ根源的な魅力が端的に表現されていると思う。

マチルダは自らの体験をもとに物語を作るのだが、それはまた別の人の物語であることもわかり、結果的には二人両方にとって救いになる。
このシンクロは、劇中においてはマチルダに秘められていた超能力によるマジカルな現象と捉えられるようになっている。しかしこれを噛み砕けば、「人は作り手も受け手も創作物の中に自分自身の姿を見出して、刺激や癒しを得ることができる」構図が見えはしないだろうか。そう考えると、子供たちが戦っていたものの正体、大人たちが失い、縛り、恐れるものが何だったのか…が見えてくる。

数々の物語を通して、かつての・そしてこれからの子供たちを魅了し続けるロアルド・ダールに対する最大級の敬意ともいえるだろう。
今作に触れた子供たちがマチルダをまた愛し憧れて、想像力という誰もに備わった超能力に気づいてくれることを願ってやまない。