stanleyk2001

野いちごのstanleyk2001のレビュー・感想・評価

野いちご(1957年製作の映画)
4.4

『野いちご』
Smultronstället(スウェーデン語:お気に入りの場所)
Wild Strawberries(英語:野いちご)1957 スウェーデン

「至るところに神のしるしがある
かぐわしい花の香り そよぐ風
ため息も吸う空気も神の恵みだ
夏のそよ風に声がする」

主人公イサク(ヴィクトル・シェストレム)が詩を語り出し途中で詰まるとイサクの息子の妻マリアンヌ(イングリッド・チューリン)が続きを語りだす。

マリアンヌは義父イサクに対して息子(夫)に学費を支払わせていることをなじる。冷たい父親だと責める。不仲な義父と嫁のはずなのにマリアンヌはイサクを助ける。足元がおぼつかないイサクを甲斐甲斐しく支える。言葉と行動が裏腹な不思議な態度。

主人公イサクは医師。長年の医師生活や研究業績が評価されてルンド大学から名誉学位を授与されることになる。

ストックホルムとルンドの間の距離は500km。東京と大阪の間と同じ。イサクは授与式当日、飛行機での移動から突然自動車の移動に変更する。

家政婦は予定通り飛行機で行くと言い張りマリアンヌとイサクが大型自動車でルンドに出発する。

イサクが子供時代から青年期を過ごした家に立ち寄る。野いちごの香りが過去を呼び起こす。

過去の空間をイサクは透明人間の様に今の老人の姿のまま歩き回る。イサクは婚約者が弟に誘惑されて奪われる様を見る。たくさんの家族たちに囲まれた昔の賑やかな生活が目の前に蘇る。

道行の途中でイサクが見る夢がこれまでの人生の回想になっている。仕事に夢中なイサクに見放された妻の不倫。

マリアンヌからは冷たい夫婦仲の相談を受ける。イサクの息子、マリアンヌの夫はイサクと妻の冷たい夫婦仲を見ているから子供ができたと告げても喜んではくれない。

ヒッチハイクでイタリアを目指す三人の若者を乗せる。娘一人と男二人。娘を演じているのは婚約者と同じビビ・アンデショーン。

今時の若者の様子にイサクは文句を言ったり嗜めたりはしない。ニコニコ見守っている。

対向車線をはみ出したワーゲンが路肩に落ちる。車を引き上げたが走行不能。ワーゲンに乗っていた夫婦を乗せる。

ワーゲン夫婦の夫は何かにつけ妻にくどくど文句を言うモラハラ男。頭に来たマリアンヌは道端に二人を下ろす。おいおい森の中に置き去りで大丈夫なのかと思ってしまうがマリアンヌの決断は小気味いい。

イサクは年老いた母親を訪問する。何かと文句が多い口やかましい母。しかし彼女が孫にプレゼントするのだという懐中時計には針がない。母の時間はすでに止まっているのだ。

立ち寄ったガソリンスタンドの主人はマックス・フォン・シドー。イサクに命を助けられたからと言ってガソリン代を受け取らない。

テンポよくエピソードが続いて退屈しない。

自分を仕事ばかりのつまらない冷たい人間と思っていたイサクは人々との出会い、マリアンヌの告白、息子との腹を割った会話でそれほど悪い人生でもなかったのかもと思い直す。

若い頃はわからなかった事が今何十年ぶりに見直してとてもよく分かった。しみじみ心に沁みた。

哲学的というほど難しくはなくて分かりやすくてあたたかいものが心に残った。
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