しの

レジェンド&バタフライのしののレビュー・感想・評価

レジェンド&バタフライ(2023年製作の映画)
3.3
歴史物の醍醐味である「作り手が歴史をどう解釈するか」に関しては楽しめたし、物凄く労力をかけた王道ラブストーリーではある。ただ、確実に金と時間をかけているのに、どこに20億円使っていて何に168分もかけていたのかピンとこないという、なんとも不思議な体験ができる映画でもある。

信長と濃姫の「今っぽい」解釈は若干テンプレ感ありつつも、延々と殺し合って領土を広げてナメられないように振る舞う武将たちの世界に疲弊していく様を描くことで、そこに現代的な視座を与える効果があった。明智光秀が背信へ向かう流れについては最早マフィア映画のように感じて面白かったし、ラブストーリーがちゃんと「うわこんな殺伐とした価値観の時代絶対イヤだ」と感じさせるための要素にもなっていると思えた。だからあの思い切ったエンドロール入りと音の演出は賞賛したい。

一方で、全体的に画が窮屈な印象。たとえば序盤で信長が崖から落ちそうになるシーンひとつとっても、はじめに1カット空撮があるだけで、あとはひたすら彼と濃姫の顔をヨリで映す。屋内の美術なども凝っているのだろうが、安土城に2人で帰ってくる場面などもセット感が際立つ撮り方をしている。

たまにエキストラが多い場面や、手の込んだ美術やセットの一端が映るのだが、それよりも木村拓哉と綾瀬はるかの顔が画面を占有している率が面積的にも時間的にも遥かに多いし、合戦などマジでスケール感出さないといけない場面は省略するので、労力の割にリッチさを感じない。主役2人のドラマに注力するため、この手の大作時代劇で目玉となる戦についてはあえて描写をオミットしたのは潔いが、ではその代わりに何があるかというと、上述のようなリッチなんだか窮屈なんだか分からない映像なので煮え切らないのだ。

ストーリー的にも惜しいのは、この監督にありがちな「長尺なのにダイジェスト感」が否めないこと。33年分を3時間で描くのである程度は仕方ないにせよ、2人が結ばれた次の場面ではすでに心が離れていたり、だいぶ駆け足。その一方で、相変わらず心情説明が野暮ったかったり、劇伴がうるさかったりする。こういう途中途中のテリングのモッサリ感(それでも今回は33年分を描かなければいけないので『るろ剣』とかよりは全然観れる)が足を引っ張り、せっかくの終盤のツイスト展開すらも冗長に感じられてしまう。引き合いに作品名を出すとネタバレになるが、やるなら見せ場として緩急つけてほしい。「今どきそんな分かりやすい死亡フラグやるかね?」みたいな、歴史イベントを2人のラブストーリーのためにわりと恥ずかしくなるような段取り感で消費していく場面もあるし。

色々言ってしまったが、唐突なバイオレンスや幕切れの思い切り、その儚さなど、木村拓哉と綾瀬はるかの恋愛絵巻というだけでない美点はあっただけに、これが20億かぁ……となるのが惜しい。こういう作品を気軽に「物足りない、はい次!」と言えるくらい裕福な国でいたかった。

※感想ラジオ
【ネタバレ感想】20億円かけたキムタクと綾瀬はるかの恋愛!『レジェンド&バタフライ』の野心を語る
youtu.be/VxGwpIlVR2s
しの

しの