紫のみなと

追想の紫のみなとのレビュー・感想・評価

追想(1975年製作の映画)
4.2
戦争を描いた映画として、ひとつの名作だと思います。

いわゆる復讐劇でありながら、復讐を遂げる主人公の職業は医師、市井に生きる中年男性です。
身体はほぼメタボのため動作が鈍く、命綱のメガネが割れるととたんに身動きとれない。しかしながら「007スカイフォール」でジェームズ・ボンドが勝手知ったる生家にて作戦を練りあげたように、この主人公も自分の城にてたったひとりで多数のドイツ兵に向かっていきます。監督が、このフィリップ・ノワレを主人公に起用したセンスは結果的に絶妙だと思いました。

また、本作では火炎放射器という武器が2度のシーンで極めて効果的に(変な表現ですが)取り扱われています。一瞬、タランティーノ監督の「ワンスアポンタイムインハリウッド」を思い出しましたが、衝撃といったらこれぼと悪魔的な衝撃もなく、トラウマレベルでありながら凝視してしまうシーン。

そして、戦争をテーマとした日本映画としては個人的に「戦争と人間」シリーズが大好きで、たまたま本作を観る前に再見していた所で、"関東軍"を見たばかりだったのでした。
本作では復讐の対象として描かれる鬼畜のごときドイツ兵が、主人公によって1人井戸に落とされ、2人車ごと転落させられるたび思わず観ているこちらもよっしゃとガッツポーズさせられてしまう心理も確かだけど、戦争によって人間が人間でなくなってしまうのは民族に関係ないとつくづく思う。

そして、麗しのロミー・シュナイダー、、、。
こういうひとをいい女と形容するのだろうな、と思います。太陽の下で豚のミンチを作る陽気な笑顔も、鏡の前でメイクする手慣れた仕草や妖艶な胸元も、夫の連れ子を芯から愛する心も、同じひとりの女、清濁併せ持つほんとに魅力的な女性で、例え復讐に成功したとはいえ、このような妻を失った主人公は、残された人生を一体どうやって生き延びていけばいいのでしょうか。