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金の国 水の国のしののレビュー・感想・評価

金の国 水の国(2023年製作の映画)
3.4
正直、演出やトーンは観ていて小っ恥ずかしくなるが、原作が少女漫画だしある程度は仕方ない。最初のナレーションで早々にリアリティラインを引いてくれるので、寓話としての心構えもできた。それでも映画としてはややキツいが、話自体はいい話だと思う。

そもそも、全てが国交開通と恋愛成就のためのお膳立てのようなユルさはある。この話で国民の反応を描かないのはどうなの? とは思うし。ただ、これは初っ端から寓話ですというスタンスだし、なにより個人的には恋愛と政治劇が等価に描かれるのが好印象だった。恋愛の盛り上げに政治を利用していない。

これを端的に示すのがクライマックスの「ここは俺に任せて先へ行け!」の場面で、あそこでそれぞれのポジションで闘っている人々を映すあたりに、恋愛劇だけに回収しないバランスの良さを感じた。結局ただのいい奴じゃん! というキャラが多いのも、善性を信じているということだろう。

隠し通路のシーンで寓意全開になるので、ここでノれるかどうかがハッキリ分かれるだろう。「私と一緒だと落ちちゃいます」を、体重の話? とか思ってしまうともうアウトだ。なんでこんな危ない所で立ち話してんの? などといったこと含め、かなりシュールな場面に見えてしまうと思う。これは言うまでもなく、「危ない橋を2人で渡れるか」の直喩的なシチュエーション設定であって、国交の話と二人の恋愛劇が満を持して接続する場面だ。ただ、確かにその結びつきがやや弱いし、「危ない橋」なんてこれまであった? という感じもするので、周波数が合ってないと気持ちは離れそうではある。

とはいえ、恋愛の最大の障壁がサーラの勝手な勘違いというのは流石にしょうもなくないかとは思ったものの、ここでのあまりに純粋すぎるテーマとの接続のさせ方──すなわち「国王が目の前の愛を見ることで気づく」という展開で、力技的に納得はしてしまった。むしろ力技なのが良かった。なにせ、真相が明かされたときのサーラの反応があれなのである。お前、一言であのとき言ったことと矛盾しとるやないかい! という、身も蓋もなさというか純粋さというか……。そりゃ唖然とするしどうでも良くなる。ここの純粋さに全体のトーンが合ってるから、やいのやいの言う気になれず。

どちらかというと、自分はお話よりも映画として観たときのキツさの方が気になった。タイトルバックまでは結構キマっているのだが、その後は小エピソードの連続でリズムがない。壁を気軽に通過する展開が2回あるのもどうなのか。せっかく美術が良いのだから、建築や町の構造を活かした緊張感ある見せ方がもっと欲しい。

その弊害がクライマックスにも生じている。というのも、隠し通路のカラクリ描写が浮いてしまっているのだ。ここが非常に勿体なくて、金の国のそういったカラクリ建築描写を序盤からもっと見せて欲しかった。水の国も同様に、水にまつわるロケーションをもっと描いてほしい。要は、この二国が繋がればどんなに良いかということをビジュアルで予感させて欲しかった。

あと、自分は「ガーン」みたいな漫画的デフォルメ表現をわざわざ映画館の大スクリーンで観たくないと思ってしまう人間なので、特にギャグシーンを筆頭にそこのキツさはずっと感じながら観ていた。ハッとした表情と共に音楽流れ出す……みたいなのも笑ってしまうのでやめてほしい。

他にも、賀来賢人は馴染んでたのに浜辺美波の声はややキャラクターから浮いているとか、地味に「インフラ」とか「ローストチキン」みたいなカタカナ語が気になるとか、エピローグが流石に説明的すぎるとか、色々と言いたいことはあるにせよ、大人も子どもも楽しめるエンタメで大切なことを伝えている作品としては評価できる一作だった。
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