JunichiOoya

a20153の青春のJunichiOoyaのレビュー・感想・評価

a20153の青春(2022年製作の映画)
4.0
関西でピンク映画を応援し続ける太田耕耘キさんに教えていただき3日間だけの大阪上映初日にお伺いした。

監督脚本編集プロデューサーの北沢幸雄=飯泉幸夫さんは私の同年代(彼の方が数年上だけど)。ピンク映画で40年のキャリアをお持ちの大御所。

コロナ禍での若い世代の辛酸、そしてピンク映画…。外食業界が取り上げられ、突然寝ぐらを奪われた一人暮らしの彷徨、という設定も重なって、どうしたって「あの映画」と比べてしまう。
あちらの監督さんはもう10歳ほど年上ではありますが。

で、居酒屋チェーンの従業員寮を追い出されてホームレスになった女性が、東アジア反日武装戦線の小冊子を後生大事に抱え込んだ爺さんと夢物語テロにうつつを抜かすというあちらに比べて、圧倒的なリアリズムがあるように思うのですが。(あくまでも個人の感想です)

家庭内の執拗な虐待、それに起因する校内での虐め体験から保護者を殺めてしまった中学生時代を経て東京でその日暮らしの派遣仕事に糊口を凌ぐ男性が、いかに自身の解放を見出すか(いや、そう易々と見出せるものではないのだけれど)のストーリーの流れがいちいち腑に落ちた。

宝物の腕時計を冒頭にクローズアップして、その来歴と凶行への流れを繋いでいく語り口。何度か挿入される、台所シンク蛇口から直に水を飲むシーン、食事の前後に箸を持ち丁寧にいただきます、ごちそうさまを唱えるシーン。そうしたものの積み重ねがリアリズムを作っていくんだろうと感じる。

相手役の人物設定(障害を持ち歩行にしんどさを抱える)、突如現れレストラン襲撃を持ち掛けるスーツ姿のホームレス(彼は店の元従業員かと思ったらそうでもないみたい)などなど、不自然さ、わざとらしさもたっぷりなんだけど、ラスト、帰省と同じ風情で淡々と電車で東京に戻る主人公の佇まいもリアリズム醸成に大きく寄与していたような。
彼が帰省時に心に決めていたのは、相手役との再会、というより彼女を含めた世間全体への決別(宝物とスマートフォンの遺棄)なんだ、という乾いた描き方も良いですね。

丸純子さん(私はいまおかさんの映画の丸さん、好きです)は良いとして、風祭ゆきさん! いや、あの登場の仕方は何がしかあと展開に絡むはず、と思いますよね、ファンとしては。
それが、「風祭さんと一度は一緒に仕事してみたい!」という監督さんの思慕だけのキャスティング(いや凄く同感してるんですけど)から、みたいなことを上映後のトークで仰ってて、そこも大好きです。
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