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ブロンドのumisodachiのレビュー・感想・評価

ブロンド(2022年製作の映画)
1.0




同名のノンフィクション小説の映画化。マリリン・モンローを演じるのはアナ・デ・アルマス。

俳優だという相手に捨てられたノーマ・ジーンの母親は、徐々に精神を病んで娘を虐待し病院へ。施設に引き取られノーマ・ジーンは女優を志すようになるが、彼女を待っていたのは性的に搾取される過酷な女優人生だった。

ひたすら苦痛に満ちた167分。こんな映画を作るべきではない。

時間経過や意識をシームレスに繋ぐアーティスティックな映像表現、体当たりとしか言いようがないアナ・デ・アルマスの熱演。この映画にあるのはそれだけ。マリリン・モンローという実在の人間を描いた作品ではない。マリリン・モンローを利用して監督が世間に見せつけたい【アート映画】もどきを好き勝手に撮った作品だ。

性的搾取。母親からの愛情の欠如。度重なる中絶による母性への執着。ひたすら繰り返されるファザーコンプレックスの呪い。ノーマ・ジーンは常に苦しんでいて、彼女の周りには人間らしい血の通った女性はひとりも出てこない。男、男、男、男、男。彼女の周りにあるのはセックス、ドラッグ、暴力、血液。人間の人生を何だと思っているのか。

先日、葬儀屋さんか何かのツイートで「お葬式にはノートを置いておくといいですよ」というライフハックを見かけた。家族が知っている故人の姿はあくまでもその人の一面だけであり、仕事上や他の世界ではまた違った一面があるものだから、故人との思い出や想いをノートに書いてもらうことで新しい姿を知ることができるから、というのが理由だった。(そしてもちろん故人をずっと忘れないためのアイテムにもなる)

どんな人間にも何十年にも及ぶ年月があり、何百、何千という人間との関りがある。実在の人物を扱うのなら、できるだけ様々な面をすくいあげて安易な決めつけを避けるべきだと私は思う。ましてや、悲惨で、中絶の過去に苦しんでいて、ファザコンというテーマありきで脚本に落とし込んだりしちゃダメだよ。【可哀想なノーマ・ジーン】という枠にギュウギュウに押し込んで、「僕が守ってあげるよ」とでも言わんばかりに舐めまわした本作は醜悪以外の何物でもない。搾取された女優を描くという搾取だよ。

彼女の知性や教養を感じさせるシーンはアーサー・ミラーとの対話のみ。でも、実際に彼女は舞台で大喝采を浴びたんだよ!芝居で!!なんでそれをカットするの?「おーよちよち。アーサー・ミラーに認めてもらえて良かったでちゅね」ってか?馬鹿にするな。

そして、アート映画にしたいのはよくわかるが、まったくもって演出も陳腐で呆れてしまった。いまどき胎児に喋らせるなんていう悪趣味なシーンを見るとは思わなかったし、倒れて膣から出産した血液はあんなところからあんな風には滲まないと思うよ?そもそも、妊娠や中絶や流産に過剰な悲劇性を持たせているのも不愉快。ノーマ・ジーンにとってそれは苦しみだったかもしれないけれど、だからこそ土足で踏み込むなと思う。

彼女の身体の中に乱暴に手を突っ込んで、内臓から何からグチャグチャにして「可哀想だが美しい……」と悦に入っているような映画。最低。

アナ・デ・アルマスお疲れの意味で1.0点だけ。


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