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あつい胸さわぎのDのレビュー・感想・評価

あつい胸さわぎ(2023年製作の映画)
4.6
2023年 11本目

まったくノーマークでスルーしていたのだが、やたらと評判が良かったので近場で上映終了間近なところを滑り込みで見に行った。若年性乳がんが題材なので、どうせ闘病モノのお涙頂戴でガンガン泣かせに来るんだろ?もう見飽きてんだよ騙されねえぞバカが!仕方ねえから見に行ってやるか、、と半分義務感で見に行った。想像していた物語とは違い、全体を通して見るとむしろ明るくてハートフルな映画だった。子供と大人の境目にいる、思春期の女の子のリアルな心模様の移り変わりを丁寧に描いたヒューマンドラマ。

学生時代、女子から「男子ってホンッットにバカだよね」と突然バカ扱いされてイラついた経験は男なら誰だってあるだろう。かくいう自分も「このクソアマ俺よりテストの点数低いくせにどの面下げてバカ扱いしてるんだろうてめえがバカだろカス」と本気でムカついていた。何を考えて、何を見て、何をバカだと思ったのか、当時はさっぱり分からなかった。一体男子の何がバカだったのか、肌感覚で理解できたのは、わりと大人になってからビデオで見たジブリ作品「おもひでぽろぽろ」を見てからだと記憶している。主人公はいたってふつうの女の子で、なにか特別なものをもっているわけでもなにもない。そこにはただ日常が描かれていて、そんな何の変哲もない毎日でも、心が大きく揺れ動く女性の繊細さが克明に描き出されており、初めてみたときに衝撃を受けた。それからは、そんな女性の日常と緻密な心理描写を描く作品は、大好きなジャンルとなったのだが、これからこの映画はその代表作のひとつに数えられることになるだろう。

この映画に「悪い人」はひとりも出てこない。みんなお互いに支え合い、思い合っている。しかし思いが強ければ強いほど、すれ違い、対立する。悪意なんて寸分もなくとも傷つけ合ってしまう。それは人と人とが生きていく上では絶対に避けられないことで、解決するためには対話し続けるしかない。そこに正解はない。その都度、対話を続けていくことしかできないのだ。そんな人間そのものの業を描きつつも、前向きに明るくなれて、タイトル通り胸さわぎが止まらない、素晴らしい映画だった。

蒸し暑さはなく、カラっとした日差しの強い心地の良い夏を存分に感じられる映像。そして光と影の使い分け。心の距離と体の距離の大きな揺れ動きを適切に切り取ったショット。文句なし!ター坊最高!
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