幽斎

チケット・トゥ・パラダイスの幽斎のレビュー・感想・評価

4.0
スウェーデンの国民的スターABBAの名曲で綴る傑作ミュージカルの続編「マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー」Ol Parker監督が豪華スター共演で描くロマンティック・コンソーシアム。和風のイオン京都桂川で鑑賞。

George Timothy Clooney 62歳。俳優で4回、監督で1回、脚本で2回、製作で1回アカデミー賞ノミネート、助演男優賞と作品賞に輝くレジェンド「最もセクシーな男性」2度選ばれるハリウッドで男も掘れる、違った(笑)、惚れる俳優。アメリカには厳格なヒエラルキーが存在し下から舞台俳優、テレビ俳優、映画俳優と枕詞で選別されるがドラマ「ER」からハリウッドの頂点に上り詰め、多くの俳優から尊敬の念を以って慕われる。ゲイの権利を主張しホモ疑惑まで生まれたが、LGBTQの人格者としても超一流。

Julia Fiona Roberts 55歳。私の父親世代なら「プリティ・ウーマン」一択だろうが、端麗なヴィジュアルとは裏腹に「マグノリアの花たち」ゴールデングローブ助演女優賞。「エリン・ブロコビッチ」アカデミー主演女優賞と立派な演技派。Clooneyとは「オーシャンズ11」「告白」「オーシャンズ12」「マネーモンスター」5回目の共演。2人の共通点は社会派の作品に高い関心を示し、レビュー済「ベン・イズ・バック」ハリウッドの大スポンサー製薬会社の闇にフォーカス。Clooneyもスーダンの人権問題でBarack Obama大統領を面と向かって追及する硬派で有る。

Roberts「ねぇ、最近大人が肩の力を抜いて楽しめる映画が少ないと思わない?」。Clooney「そうだね、私も結婚してすっかり落ち着いちゃったけど、親目線のラブコメなんてドウ?」と言う事で「ラブ・アクチュアリー」「アバウト・タイム」コメディが得意なWorking Title Filmsへ持ち込み企画。レビュー済「ザ・ロストシティ」Sandra Bullockと同じ経緯を辿る。配給はメジャー、ユニバーサル。日本の電通も資本参画してる。

現在のハリウッドは「豪華スター共演!」キャスト・ファーストな作品は減少の一途で、演歌歌手が1人でステージを務めても客入りが悪く、複数でコンサートを開催する実情と重なる。要はアメリカも日本もエンタメに対する財布の紐が固い。ステルス的な経済格差とも言え、2人の様なセレブ俳優は例外でも、今のハリウッドは昔の様に宣伝にお金を掛けられない、スタジオのジレンマも感じる。

日本に来日するスターはCOVID以前と今も余り変わらずTom CruiseやBrad Pittの様な親日派しか来ない。テレビの映画情報番組も壊滅的でLiLiCoさん1人で頑張ってる。スターに触れる機会が減れば結果的に俳優達も死活問題、昭和のスターは憧れる存在だが、令和は観客も多様化して自分が共感できる俳優と趣向も変化。レンタルビデオを何度も見てお気に入りを探すのではなく、時々で応援する俳優も入れ替る。私はTomが引退したら、ハリウッド・スターの時代は本当に終わりだと常々思う。

レジェンド2人の共演だけに嘸かしプロダクツは順調かと言えばソウでもなく、兎に角スポンサーが集まらない。ギャラが高いのは否めないが、インドネシアのバリ島の設定ですが、節税対策でオーストラリアのクイーンズランドで撮影、ゴージャスに見えても削れる所は大阪維新の会並みに削減(笑)、2人も製作に加わるClooneyとRobertsのセルフ・プロデュース。監督が2人を当て書した脚本もテンプレ過ぎて平均点だが、豪華スター×抜群のロケーション×ラブコメと言うスポンサーが集まらない、時代から取り残されたジャンルでも、逆に映画ってコレで良いんじゃない?と教えてくれた気もした。

今の映画は全てに置いて「良く出来過ぎ」。作品のプロット、スクリプトの構成力、VFXの見事さ、現代の映画は物凄く情報量も多く、映画は120分と言う暗黙の了解を超え3時間が当たり前。私はスリラーが専門ですが此のジャンルも社会問題への風刺、政治的思惑すら秘めた作品が増えた。レビュー済「NOPE/ノープ」Jordan Peele監督は正にソレ。伏線やオチの考察など鑑賞後に考えを巡らせる作品が持て囃される。私は肯定派ですが、人に依っては金を払って、時間を割いて、頭も使って、正直疲れるかもしれない。

Hollywood映画はパッと見て面白く、映画館を出たら「よし、明日も見頑張ろう!」エンタメが明日への活力としてリポビタンD並みの回復力(笑)。映画は考察を巡らせるのではなく単なる気分転嫁で良い。フランス映画の様な感性に訴える事もせず、イギリス映画の様に起承転結に拘らず、ロシア映画の様に哲学的でも無い。アメリカ映画の良さとは「欲が無い」フットワークの軽さこそ本来あるべき姿。ソレをClooneyとRobertsは声を大にして言いたいのだろう。世代間格差で作品に対する思い入れも違うが、本作には作り手に「笑わされてる」感がとても薄く、下馬評に反して北米興行成績初登場2位と大健闘。COVIDで疲弊した人々を心の底から笑わせたい。そんなメッセージをClooneyとRobertsから受け取り、私もリッチで淡いシャンパンの泡の様な、綺麗で軽やかな時間を楽しめた、コレで良いのだと。

ラヴコメとは人生へのデトックス。何も残らない様に見えて秘めた思いも感じて欲しい。
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