おいなり

エゴイストのおいなりのレビュー・感想・評価

エゴイスト(2023年製作の映画)
3.9
いい意味で小品的な、淡々とした作品。でも伝えたいメッセージ性は明白なので、後味はよかった。

エゴでもなんでも、受け取った側が愛だと感じたらそれは愛なんだよという考え方。我々が愛について抱く、きれい事じゃどうにもならない部分に対して、すごくストンと収まる答えだなと、感心してしまった。マイノリティに対してだけでなく、普遍的な愛という感情そのものに対して訴えかけてくる言葉だなと思った。
それぞれのキャラクターが近くて(画面的にも)、ほんとに隣で自分に語りかけているような、同じ目線の高さで聞いているような感覚があって、だからこそ、染み込むように優しい言葉が響いく。



ブランドの服を着て、いいマンションに住んでる浩輔は、世間的に見ればスマートで稼いでる成功者に見える。
でもそれは、社会から自分の身を守るための鎧でしかなくて。そうやって虚勢を張ることでしか、今世の中に必要とされてない自分たちを守ることが出来ない。政治家が同性婚なんてとんでもないと繰り返し、隣に住んでたら嫌だなどと恥知らずにも公言するようなこの国では、心を鎧で覆う他に自分を偽らずに生きていく術はない。
そんな自分の洋服たちを、愛しい人に着せてあげることで、彼のことも守ってあげたかったのかな、と思うと、本作の「エゴ」が招いてしまった結果は、あまりにも切ない。



浩輔の選択は、ある意味で金や物で愛を繋ぎ止めているだけともとれるし、自分の贖罪に他人を利用しているとも取れるし。でもそういう不器用な生き方もちゃんと「愛」として受け止めてくれるのが、すごく救いがあって温かい気持ちになれた。
幸せになるのも、誰かを幸せにするのも、それ自体はとても難しいことだけど、献身に対する救いは、もっと世の中にあっていいと思う。


愛なんて身勝手で、だからそれがいつも最良の結果を呼ぶとは限らない。誰もが自身のエゴイズムと戦いながら、誰かを愛している。
愛がなんなのかわからないと苦しむ浩輔は、誰かに愛を注ぐたびに「僕のわがままだから」と繰り返す。でも、愛とは自分勝手なわがままそのものなんだと、最後に浩輔に返ってきた「愛」が教えてくれる。
この映画の静かな結末には、「エゴイスト」という言葉の意味を、180度変えてしまう力強さがある。


なんかこう、人生観変わるとまで言うと言い過ぎだけど、この先なにかで愛について考えた時に、ふっとこの作品のことが頭に浮かびそうだな、と観た後に感じています。



それにしてもベットシーンはなかなか生々しかったですね。宮澤氷魚くんみたいな可愛らしい顔の子がおじさん抱いてるの、見る人によっては性癖歪みそうな破壊力があった。龍太の腕フェチを感じさせる愛撫の仕方が、生っぽいリアリティがあった。
鈴木亮平はゲイ受けする顔ではあっても、決してゲイっぽいわけではない。なのに、ゲイ仲間といる時の喋り方とか、龍太の母親に会う時の、隠してるのに隠しきれてないオネエみが溢れてる感じとか、ものすごく繊細な演技が巧くて。その解像度の高さに、観察眼が本当に優れた役者なんだなと思った。

海外ではストレートウォッシュとかいうくだらない概念があるらしいけど、日本俳優にはもっとこういう「何にでもなれる俳優の凄み」を見せ続けて欲しい。ストレートがゲイを演じるのも、ゲイがストレートを演じるのも、何の問題もないと思うんですけどね。
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