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エゴイストのSQURのネタバレレビュー・内容・結末

エゴイスト(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

性的には少数派だが高収入で仲間もあり社会的地位が確立された主人公と、容姿は良いけれど経済的には恵まれていないゲイの間の恋愛の話が始まり、観ている観客側の方がむしろ「お金目的なのでは?」とか疑ってしまいそうになるが、劇中でそのような疑念や迷いが映されることはない。そういう迷いはあって然るべきように思えるけれど、それらはおそらくあえて映されない(私だったら恋愛する相手が自分よりずっと収入が良くて、定期的にお金を貰っていたらどこか気後れしてしまうと思う)。
そのように、「綺麗な恋愛」が進行しているように見える。しかし物語の最終盤の、食事シーンの1点に置いて、唯一そこに実は綻びがあったということが暗示される。
その綻びは実に多義的で有機的な複雑なもので、それは例えばゲイであるが故に本当は相手の親に認められてないのではないか?といった迷いや本当には家族にはなれないんじゃないか?といった疑念や、本当に愛していたのだろうか、どうして愛していたのであれば相手の負担を気づいてあげられなかったのだろうかとか、そういった幾つもの、映画の中で直接は描かれて来なかった躊躇いの集合体であり、それが貰ったはいいものの食べることが出来ず冷蔵されていたお惣菜として表出している。
「私の息子です」と受け入れられるくだりはそれまでに雑談として話されていたゲイ故に籍を入れられない話とも呼応している。そしてさらにその後の天国ではりゅうたのことをお母さんが面倒を見てるでしょうねのくだりはそういった古典的な家族観を超えた受容を感じさせる(このシーンで思わず泣いてしまった)。
そうした受容を経て、ずっと食べずにいた手作りのお惣菜を味わいながらひとりで食べるシーンは、主人公が、好きだけれど本当には打ち解けられないと信じていたという自身の"エゴイズム"に向き合い乗り越えた瞬間であり、この映画の白眉と言う他ない。
映画として、そこまでそういった人間的思考のブレの表現が抑制されて来たが故に、その瞬間の力動は一層際立ってみえる。
素晴らしい映画だった。


追記:映画の内容とはあんまり関係ないけど、大人のきちっとした感じの男の人が泣くシーンって映像として華があってずっと観ていられますね。
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