どらどら

エゴイストのどらどらのレビュー・感想・評価

エゴイスト(2023年製作の映画)
5.0
- まだ行かないで、、

日本でこのレベルのゲイムービーが撮られたことに第一に感動する
「セックスのバケモノ」としてでもなく
「不可避の困難を乗り越える真実の純愛」でもなく
その特異性を殊更に煽ることなく
かといって過度の普遍化も行わずに
ただ浩輔と龍太の関係として2人の関係を描く
この映画は、どこまでも真摯だ

このひとの関係の複雑さと豊かさについての映画は
圧倒的な質量をもって観客の心に残り続ける

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何から何まですごいと思った
作り手が何を考えて作ったのかこれ程よく伝わる作品もなかなかない

ゲイないしLGBTQに対しての偏見を言葉強く指摘する映画ではない
しかし映画はその質量でもってその偏見に挑む

ゲイに対する偏見が強調されることはない
東京で浩輔は開放的に生きている
しかしその偏見をウォッシュアウトすることもまた映画は拒む
この複雑さに挑む勇気

浩輔と龍太の絡みは丁寧に官能的に描かれる
これを「攻めた」演出と言う社会通念を嘲笑うかのように
男女の絡みでこの程度(あえてこの程度という)のシーンがあったときに殊更に注目されるだろうか?

「愛は身勝手」と言うキャッチフレーズのように、この2人の関係は極めて歪だ
経済的にも社会的にも立ち位置が大幅に違う2人
序盤の浩輔の部屋で服を物色する龍太になんらかの下心がなかったか?
母のために働く龍太を支える浩輔が見ていたのは果たしてその2人ではなく過去の自分と母なのではないか?
ゲイの恋愛に過度に純度が要求される社会通念を鮮やかに反転させる
当然彼らが人間である以上、そこに字義通りの「純愛」など成立するはずもない
(その上で彼らの関係はその身勝手さゆえに「純愛」であるという鮮やかな反転をまた映画は試みる)

龍太と浩輔の関係が成立してしまったことでこのようなことになったのではないか?と言う問いに対しての答えは厳密にはイエスなんだと思う
それでもこの「ごめんなさい」を拒否する(そして言うこと自体は拒否しない)映画はどこまでも優しい

鈴木亮平のインタビューを読めばわかるようにこの映画が立っている次元は今までの日本のゲイムービーとはレベルが違うと思う
こうしてこの映画が作られ、これだけの規模で受け入れられるまでには社会は到達したとも思えるが、「隣に住んでいるのも気持ち悪い」と言い放つ首相補佐官がいる国で私たちはあらゆる義務を背負っていると思う

ちなみにこれはもはやゲイムービーではなく「愛」についての映画だ、というような言は不勉強だし差別的でさえあると言うのは指摘しておきたい(北丸雄二さんのご著書をお勧めする)
映画の宣伝もしっかり「ゲイ」ということを打ち出していることがどれだけすごいことか(逆説的にこの程度で「すごい」と言う悲しい状況でもある)
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