ばなやん

エゴイストのばなやんのネタバレレビュー・内容・結末

エゴイスト(2023年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

2023.03.12 『エゴイスト』
鈴木亮平・宮沢氷魚主演と聞き事前に原作を読み、封切りを楽しみに待っていた一本。とにかくたくさん考えさせられたくさん揺さぶられる作品でした。

手持ちカメラを多用しドキュメンタリー風に撮られることで、2人が紡ぐマクロの世界に没入。
「同性愛という枠にとどまらない普遍的な愛を描く映画」と美化して称賛して片付けてしまうものではなく(この映画がそう称賛されるべき素晴らしい作品であることは間違いない)、かといって「ゲイ映画なので”BL”に理解ある人向け」として対象を狭めるのも違って、不器用な愛のかたちを観て、何を思いどうするべきかを考え続けたい映画でした。

身体的性別・性自認・性指向・性表現などなどはグラデーションがあるもので、組み合わせがひとつでも自分と違うからって「当事者では無いので分からない」と切り捨ててしまったら、私はインドの英雄でもないしサイコ殺人犯でもないしキラキラした女子高生でイケメンと恋愛する美少女でもないし、どんな他人の物語の当事者にはなり得ない。これを単なるフィクションとも作者のノンフィクション(に近いフィクション)とも線引きしたくないほど揺さぶられた。

恋愛感情ある無しを問わず自分の好きな人や好きな人の大切な人が幸せになってほしいし、そのための制度、助成、環境、見方が良くなってほしい。
「愛は身勝手。」がキャッチコピーだけども、結局は自分のエゴから始まって、その時その時の精一杯の身勝手が生む結果が誰かを救うのであれば万万歳なのよ!
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浩輔に”買われて”以降昼夜働き詰めるブルーカラーの龍太と、龍太と満ち足りた生活を送りカメラマンに幸せいっぱいのポーズを撮ってもらうホワイトカラーの浩輔対比も見ていて辛い。お互い幼少期に欠落を経験しながら、不器用に補完しあう2人にもっと幸せな日々を送って欲しかった…と、フィクションながらも願ってしまう。
柄本明さん演じる浩輔父が浩輔母の闘病中にあった喧嘩について朴訥に話すシーン、それに対して浩輔が胸中の入り混じりを隠そうと一言ポツリと返す姿。また、阿川佐和子さん演じる龍介母が葬儀後に浩輔に語る所、そして病室での同室人からの問いかけに対しての答え。素晴らしかったです。
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文庫版の鈴木亮平さんのあとがきは本当に全ての人に読んでほしい。
まだ自分の中でもうまくまとめられていないけど、観てよかった。良い映画だった
ばなやん

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